1.数百の生命を救つた漁船(富津小學校)

海邉は恐怖と興奮とに目の色を變へた老若男女で一ぱいであつた 對岸七里横濱の邉り黒烟濛々天に漲る 心痛の色は人々の面上にあふれた 横濱全滅の聲は嵐の様に傳はつて来た 救援隊は號令を要せずして集まる身躰強健海を陸と心得て恁ふした救難に一種の興味さへ持つ若者は期せずして集まつた 其の夜焦熱地獄の底から這ひ出して本牧根岸の海に逃れた 着の身着のままで一本の藁でも掴まふと言ふ生の執着を以て


富津救援漁船が岸に着く,一隻又一隻,完全に岸に着かぬ内から海に這入って救いを求める者が引きも切らず船は忽ち一杯人の山,吃水線を舷とすれすれに救助船は斯くして必死の力漕を續けて死線に漂ふ群を富津へ運んだ 梭[梭 さ 機織りの具「杼 ひ」]の如くに船は行き交ふ,日に夜に


上陸した憐れな人達は都合數百人,食を與へられ著物[まま]を着せられ幾日の休養の後旅費さへ貰つて各自の家路へ急いだ 厚い感謝を捧げながら… 以上は血の氣の多い當町民が數日間の涙ぐましい動誌である 人類愛を高調した美談である されば横濱市長からは感謝状を贈って來た 勇士活の面々は光榮に輝いた