いつも同じ店で飲んでいた


ネームをきったり,下書きしたり,ペン入れするのは家ですが,ストーリーを考えるのは外でした


「ちょっと出てくる」


昼食の後,午後2時か3時になると,主人はそう言って出かけていくのです. 喫茶店でストーリーを考え,それから古本屋に行き,そして飲み屋でお酒を飲むというのがおきまりのコースでした. だから夕食は家で食べません. 何時に帰ってくるかもわかりませんでした. でも,私はそれで構わなかったんです. ずっと家にいるのですから,それぐらいのストレス解消をしないと行き詰まってしまうと思っていたからです


飲み屋はいつも同じ行きつけの店に行っていました. 東京都豊島区の東長崎を振り出しに『はだしのゲン』連載中に住んでいた江東区東砂,都内だと思って買ったら道路ひとつ隔てて埼玉県だった新座市の家,そして終の棲家となった所沢の家…と結婚後4ヵ所に住んだのですが,引越しをするたびに行きつけにしたくなる居心地のいい飲み屋を探すのが,主人の習いでした


ちなみに家を決める時は,自分がいいと思ったら,私がいくら反対しても主人が即決するんです. 現在の所沢の家も私は大反対したんです. 駅からとても遠いし,買い物も不便だからと何度言っても,この程度は歩けばいいんだと主人は聞く耳を持ちませんでした. 頑固なんですよ. ところが住み始めたら,失敗したと言うんです. やっぱり駅から遠すぎたですって(笑)


はだしのゲン』連載中は,東砂の団地の近所の河豚屋さんでいつも飲んでいました. そこへ行けば気のおけない仲間がいて,同じ顔ぶれで気楽に飲めたようです. 何時に帰宅するかはわかりませんでしたが,どこにいるかはわかっているので,私も気が楽でした. 携帯電話などまだない時代でしたが,仕事の電話がかかってきたら,その河豚屋さんに連絡すれば必ずつかまるんです