隠れて始めた絵の練習
私は,結婚して初めて漫画とはどういうものかを知りました. 主人はネームが出来ると
「読んでみるか」
と見せてくれました. 読んでみると,ぐーっと引き込まれる感じですごく面白いんですね. こうやってストーリーを作るのかと感心したんです
1回分の20頁を描くのにずいぶん時間がかかるということも初めて知りました. わら半紙にネームを書き,それを原稿用紙に写して,下書きして,最後にペン入れ. 私は何もないところから次第に絵が浮き上がってくるのが面白くて,いつも黙って見ていたんです
そんな私を見て主人は
「べたを塗れ」
と言うようになりました. そして,いつの間にか手伝うようになっていたのです
もちろん手伝うといっても,私に出来るのはべた塗りや枠線引きだけです. でも主人が外出すると,要らない紙に草の絵を描いたりしてこそこそ練習するようになりました. 絵を描くのが楽しかったんです. それに,ペンと丸ペンのペンタッチに慣れておかないと,本番の原稿用紙にはこわくて線一本引けないというのもありましたし. 私が多少でも上手になれば,そのぶん主人の役にたてるという思いもありました
ある日,本棚にあった白土三平さんの本をたまたま手に取り,頁を開いてびっくりしました. 草や樹がそこに生えているような感じでいきいきとしているし,風も本当に吹いているようだったのです. こんなに絵がうまい人がいるのかと本当に驚きました. 主人の絵なんか全然だめだなあと(笑)
「この人,絵がうまいね」
と主人に聞いたら,主人も
「白土さんは抜群にうまい」
と認めていました. そして
「絵は上手な人のを見ないと上達しないから,こういうのを見て勉強するんだよ」
と教えてくれたんです
それからしばらくして,背景も描くように言われました. 自信がないから最初は断ったのですが
「失敗したら俺が直すから描け」
と言うんです. それで背景も描くようになりました. といっても主人が鉛筆で下書きしているところにペンを入れるだけで,まったく何もないところに描くわけではありません. 駄目なところは主人が直していましたし
こうして,べたから始まり効果線,背景と進んで少年ジャンプで『はだしのゲン』の連載が終わる頃には,草や樹,波も描くようになっていました. 草や樹や波を描くのは難しい分やっぱり楽しかったですね. 影の付け方ひとつで絵が浮き上がってきたりするのが,とても面白く感じました
波を描いた時に,ちょっと怒られたこともあります. 遠近法なんて知らないで描いていたから,変な波になってしまっていて…. 主人は,遠近法や構図について,基礎から教えてくれました