原爆への怒りを作品にする


結婚半年後,主人のお母さんが亡くなったんです. 葬儀を終え,広島からの帰りの電車の中,主人はずっと黙っていました. お弁当を食べる時も無言で,思い詰めたような顔をして,本当に一言もしゃべることなく…


そして東京に戻って1年経ってから独立したのです


「独立したから描く」


と言って完成した作品が,『黒い雨にうたれて』,原爆を題材にした短編でした. 更に『黒い川の流れに』『黒い沈黙の果てに』『黒い鳩の群れに』といった短編作品を合計6本立て続けに描いたのです. 私はその時はじめて,広島からの帰りの車中で主人が無言だった理由に気づきました


お母さんを火葬した時,放射能の影響ですべて灰になり,遺骨が一片も残らなかったのを見て,主人は原爆への怒りを作品にぶつけようと考えたのです. 黙っていたのは,きっと原爆のことばかり考えていたからなのでしょう. 被爆者の姿をどうやって漫画に描こうか考えていたからなのです


6本の作品を描き終えた時,主人は気持ちが軽くなったのか,ほっとした表情を浮かべ初めて明るくなりました. それぐらい思い詰めていたんだと思います


その6作品は,青年誌に掲載されました. でも,主人はもともと少年誌で漫画を描きたい人だったんです. そこで『負け犬』などの作品を持ち込んで,少年ジャンプに描くようになりました. そして少年ジャンプが週刊化する際の企画で描いた自叙伝漫画が,『おれは見た』です