戦前感書いて戦争を止める

小説を通じ一貫して、個人であることを阻害するものへの違和感を堀続け、些細なことと見なされている本質的なものにこだわってきました。個々人の深い悲しみや傷を、取るに足らないものとして冷笑する圧力と闘ってきました


権力の不正から国民の目をそらすために弱者への迫害を快楽化する装置『火星人少女遊郭』は蔓延する未成年アイドルやコスプレ買春、芸術を装った少女虐待などから着想しました。少女への性収奪は、市場経済による人間の商品化の根元にあると思います


作品には、一つの希望として女人国「ウラミズモ」が登場します。農産物は地産地消で、長く使える丈夫な製品が流通し、ささやかな贈答や家庭内の贅沢で経済が潤っています。すでに原発を廃止し、反戦争主義を掲げ、独立した各県の連合を志して東京と沖縄を対等にしようとしています


文学で戦争を止めよう というテーマで長編小説を書いています。戦争法ができた今、日本は戦前なんです。私はまだご飯も食べられるし、猫とも暮らせる、スーパーに行けば何でもあるけれど、戦争は一気に来るんだよ、という切実な戦前感をなんとしても書きたい。少なくとも戦後70年、平和憲法はあった。その幸福の根本を奪う政治にだまされてはいけません



(写真)著者近影 (略歴)1956年三重県生まれ。81年「極楽」(群像新人文学賞)でデビュー。『なにもしてない』(野間文芸新人賞)、『二百回忌』(三島由紀夫賞)、『未闘病記』(野間文芸賞)ほか著書多数