野村修訳B

かの女がおぼれて死んで、小川から


川へと流されていったとき、じつに異様に


空のオパールは冴えていた、さながら


なきがらを宥めるためのように



浮きくさが藻が身に絡みついてきて


かの女は少し重くなる、やがてずっしり重い


冷たく、魚が素足に触れて泳いで


生きものに拒まれ、最後の旅路もなお遠い



ゆうぐれに空はくろずむ、煙のよう


夜にはゆらめく、星くずのうすらあかり


だが朝、空は明るむ、どうしてだろう


かの女のためにまだ朝があり、夕があり…



あおざめたからだが水のなかで腐ってゆくと


神はかの女を忘れる(じつにゆっくりと)


まず顔を、ついで手を、そして髪をいちばんあとに


かの女はもう腐肉、無量の腐肉とともに



野村修訳『世界現代詩文庫31/ブレヒト詩集』土曜美術社販売,2000/11/10,p.21


ブレヒト詩集 (世界現代詩文庫)



野村修『ドイツの詩を読む』白水社,1993/03/15


isbn:4560004528