策略による統治 / 劉基『郁離子』

封建時代の楚の国に、猿を召使いにして暮らしている老人がいた。楚の国の人々は、彼を「猿の主人」と呼んでいた。



毎朝、老人は中庭に猿たちを集め、その中の老猿に命じた。若い猿たちを山に連れて行き、茂みや木から果実を採ってくるように、と。収穫の十分の一を老人に献上するのがルールだった。それができない猿は、無情に鞭で打たれた。猿たちはみな惨めな苦しみを味わっていたが、敢えて不平を訴えようとする者はいなかった。



ある日、子猿がほかの猿に尋ねた。「果樹や林の木は、あの老人が植えたの?」と。聞かれた猿は答えた。「いや、自然に生えてきたものさ」。子猿はさらに尋ねた。「老人の許可がないと、果実を採ってはならないの?」。猿たちは言った。「いや、誰が採ってもいい」。子猿は続けて尋ねた。「それじゃあ、なぜ老人に飼われてなきゃならないの?なぜ彼の召使いじゃなきゃいけないの?」



子猿がそう言い終わるか終わらないかのうちに、猿たちはみなハッと覚醒した。



その夜、老人が眠りに落ちるのを見届けて、猿たちはこれまで閉じ込められていた囲いの柵をはずし、囲いそのものを破壊した。また、老人が蔵に貯めていた果実を盗み出し、それを持って森へ逃げ、二度と戻ることはなかった。老人は、ついに飢え死にしたのである。



郁離子 曰く、「世の中には、正当な原理ではなく、策略によって民衆を支配する者がいる。まるで猿の主人のようではないか?彼らは、頭の中が雑念で混乱しているのがわかっていないのだ。民衆が目覚めるやいなや、彼らの権謀はもはや効力を持たなくなる」。




■Gene SHARP / 滝口範子 訳 『独裁体制から民主主義へ/権力に対抗するための教科書』(ちくま学芸文庫シ-30-1) p. 042