民間の募集と軍および政府の責任


右の頁にまいりますが,中国や東南アジア,太平洋地域ではどうだったかですが,ここでは日本の植民地ではありませんので,軍が前面に出てこざるを得ないという状況があったと思われます. 一つは地元の有力者に対して軍が女性たちを集めるよう「要請」するということになります. その要請に基づいて地元の有力者が強制をする場合が多々あったことは言えると思います. そしてこの要請は事実上の命令であったと思います


それから軍や官憲による暴力的な連行が一部であったということも,被害者の証言だけではなくてあるわけです. これはあとで必要があれば実例をお示しします


次にまいりますが,官憲が直接手を下していなければ問題ないのかになりますが,そこにAからJまで書いてありますが,慰安所に軍がどれだけ関与したのかということは,公文書で否定できないところまで来ていると思います. 例えばですけれども,慰安所の設置の決定は軍が行うわけでありまして,業者が設置を決定するということではなく,軍が決定してつくられていくというのが常識であります


徴募の指示も軍が行っております


それから業者の選定も軍,あるいは軍に要請された総督府等が行っていると思います. この業者には軍の身分証明書が発給されているということになります. 具体的に資料7を見ていただきたいと思いますが,これは去年の12月に警察大学校から出てきた資料です. 文章が長いので私が図示して書いてみたわけですが,内務省の警保局員が「支那渡航婦女に関する件伺」という文書をつくっております. 1938年11月であります[*1]


どういう仕方で集められたかですが,当時広東攻略作戦が行われ,第21軍が広東省を占領します. そこに慰安婦を集めることになり,第21軍の参謀と陸軍省の徴募課長が内務省警保局に要請にまいります. 要請を受けた警保局は陸軍省の強い要請であり拒否できないことで,五府県知事に下ろし,大阪京都兵庫福岡山口に各100名ないし50名,計400名を割り当てます各府県知事が業者を選定し軍から来た証明書を交付することになりました


実際に業者に集めさせるわけですが集める際には「経営者の自発的希望に基く様」に取り運ぶと指示をしております. この資料によると「既に台湾総督府の手を通じ同地より約300名渡航手配済」と書かれております. 内地から400名,台湾から300名を会わせて広東省に送るということです


台湾総督府が手配済みということは,上から割り当てていったということになるのではないかと思います


したがいまして,徴募の過程でも,実際にそれを行うのは業者であったとしても,そこに問題があれば軍や政府は責任がないとは言えないと私は思います. その他ここに私が列挙したようなことを軍がやっておりますので,慰安所をつくる場合,あるいはそれを運営する場合,民間業者に委託する場合も全体の運営,統制の主体は軍であって,業者は従属的な役割をしていたと思うわけであります

*1:吉川春子『従軍慰安婦/新資料による国会論戦』あゆみ出版p.175