「はじめに-あなたもいつ無実の罪に落とされるか知れない」
面会人吾も番号で呼ばるなり金網越の囚人の顔
無実にてつながれているか死刑囚岡部被告は歯も欠けしまま
無実をば叫びつづけて十五年刑務所の中で老ひて行く被告
十五年無実を叫びいる人に刑務所の塀は高く冷たし
人なつこき笑みを浮かべて話す人六人惨殺と思はれぬ笑み
一家六人惨殺の嫌疑に捕はれの岡部被告は吾と同年
ある日吾に懸けられるかも知れぬ疑に背筋を走る冷たき思ひ
拷問の疑の濃き自白調書一人の生命消されむとする
(1969年11月8日広島拘置所にて)