【陸上】

豊海射場の場合, 海上と陸上とでは被害の性質がまるで違う. 海の被害は何といっても漁獲が減ったことだが, 陸上は発射音と無人機による心理的被害が大きい. 陸上の補償がいっこうにはかどらないのもこのためだろう



私が訪れた日は問題の高射砲は休んでいたが射撃の音響と無人機の恐怖について町の乾物屋も薬屋も郵便局や役場の勤め人も異口同音にいう…「射撃が始まると小さな家は2寸ほど床が飛び上がる」「棚の置物がどしんと落ちる」「寝たっきりの老人は治るはずがない」「妊婦は流産する」「鶏は卵を産まない」そして今町の人々の間には「つんぼが増えて東金の耳の医者がえらく繁盛しているそうだ」とまことしやかに伝えられている. 話を半分に割引きしても演習の物凄さが分かろう


爆風による家屋の被害も外から見ただけでは気がつかぬが一歩屋内に入ると新築でありながら壁にひびが入っている家がある. 無人機は地元では「赤蜻蛉」と呼ばれている. 今年の春頃までは海に落としていたが一機何十万円もする高価なものなので, 最近米軍は浜の上空で落下傘を開かせるようになった. 岡の無線操縦士の腕が良ければ所期の位置に落せるが,何かの都合で代りの兵隊が操ると往々にして民家へ飛び込んでしまうのである



2年ほど前には町のアパートに墜ちて昼寝していた夫婦二人が即死した. この夏には農家に墜ちて納屋が全焼した. 9月には民家の路地へ飛び込んで年寄が腰を抜かした. ある家では無人機怖さに一家そろって隣町へ引っ越した…等町民の話を聞けばきりがない


ところで陸上補償であるが道路改修と学校の防音装置, それから無人機による直接被害の他はいまだに手がつけられていない. 免税運動はこうした事情から起こった. 税を納めたくても安心して働かせてくれないではないかというのだ. 最近調達庁は陸上補償に関心を寄せているが決め手となる法律がないため難航が予想されている



豊海町にはこの他売春婦とヒロポンという大きな問題がある. 売春婦の数は最近2,30人に減少したがこれは現在キャンプの兵隊が少ないためで, 兵隊が集まればまたごっそりやって来る. 多いときには250人に上がったという. 彼女たちが町の風紀や教育に与える悪影響は測り知れない. 子弟を持つ親や教師はともかくとして野良に出る百姓さんまでも女たちがビール瓶やヒロポンのかけらを辺り構わず捨てるので「足袋・長靴を履かなければ怖くて田圃に入れない」とこぼしていた


県の一部には「いままで漁村としてしか知られなかった町がキャンプのおかげで補償金をもらい, 商売が儲かる. 米軍が引揚げるといったらひきとめるものも少なくないのではないか」と見る者もいる. しかしほとんどの住民は「補償金も要らない. 町の名が知られなくてもいい. 昔通り波の音だけを聞きながらのんびり暮せればそれで十分なのだ」というのである



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