【海上】

演習は毎週月曜から木曜の4日間(6,12月は昨年6月から射撃中止)正午から夕方18時まで兵舎脇の離陸場から無人機を飛ばしこれに吹き流しを付けて米軍と自衛隊の機関砲または高射砲が仲良く狙い打ちするのだが, 演習が始まると付近の半径7km(高射砲の場合は20km,昨年5月までは28km)の海上は完全に立入禁止となる




昔から九十九里一帯はあぐり網[揚繰網]が盛んで漁師たちは沿岸を南北に上下しながら鰯を追っていた. だからこの広大な立入禁止水域は業者たちに非常にこたえた. ある漁夫は九十九里のど真ん中に「関所」が設けられたようなものだといっている


1948年から昨1953年3月までの補償金3億7千万円という巨大な数字から逆算して彼等の受けた打撃がいかに大きなものであったか想像がつこう. しかし補償金は去年の夏から演習時間と弾着距離が縮小したので今後は大幅に削られてしまう




補償金の配分方法もあぐり[揚操]網の経営者に重点がおかれ, それに銚子から鴨川までの広い範囲にばら蒔かれるため基地の漁師に渡る金はいくらにもならない. 補償ブームなどということはついぞ聞いたことがなく, これからはもっと心細くなるだろうと漁民たちの表情は暗い


補償問題よりもっと心配なのは 彼等が何時も砲弾の危険に晒されているということだ. 去年のはじめ豊海町の一漁夫は出漁中高射砲の破片を胸に受けて大怪我をした他, 射撃時間を気にしたばかりに船の陸揚げを急ぎ過ぎ, 下敷きになって死んだ婦人もいる. 演習は海が時化ても御構い無くやるが予期せぬ突風に遭い町を目の前に見ながら「関所」があるために沖を遠回りして遭難一歩手前に差し掛かるのはしばしばだという. 「雀の涙ほどの補償金より生命の方がどれだけ大切かしんねえ」と漁師たちは口を揃えて語っていた