島本幸一郎他『建設業コンプライアンス入門』より

島本幸一郎【大成建設社長室経営企画部企画管理室長兼CSR推進室長】


第一章●コンプライアンスと関連概念 1. 新しいコンプライアンス


コンプライアンスは新聞などではふつう「法令遵守」とか「法令等遵守」と訳されます. 法令等の「等」には条例,行政指導の他,社会規範や取引慣行等も含むとされる場合があり,世間の良識や常識を含むとなるとその範囲は限りなく広がりを見せます


何かを「守る」というとき「何を」守るかが明確になっていないと守る側の主観が入ることになります.…


このようにコンプライアンスを「何かを守る・守らせる」という関係だけで捉える考え方に警鐘を鳴らす人がいます. その一人畑村洋太郎工学院大学教授はコンプライアンスについて「法令遵守」だけが大きく取り上げられると「これを守らなければならない」から「これさえ守ればいい」になりさらに「これを守っているのだから俺は正しい」となり「形骸化」「形式化」に陥ってしまうと述べています. 失敗学の第一人者である畑村教授はコンプライアンスの工学的な意味(「柔らかさ」や「柔軟性」一定の力を加えた時にどれだけの変形が起こるかということ)からコンプライアンスを「何かの物や人がどの程度柔軟にそして感度よく外からの要求や規範に応じた働きをするのか」という概念で捉え「社会全体が当たり前の方向に動くには法律と人間や企業との関係を従来の『従う』『従わせる』から自ら求められていることを自覚し自ら行動する『自律』に転化していくしかない」と述べています[*1)季刊『コーポレートコンプライアンス』(2004年11月桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センター発行)創刊号巻頭言]


以上冒頭だけ