東京新聞 2018/02/25 5面 社説

真実見極める目を

アウシュビッツ収容所解放から73年 老いた生存者らは排外主義の復活を憂えている 真実を見極め でまに惑わされまい 今 必要な教訓でしょう


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ナチスポーランド南部に設置しユダヤ人らを虐殺した収容所がソ連軍によって解放されてから先月日で年がたちました 区切りのいい節目の年ではないが 跡地の博物館やドイツではホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の犠牲者に対する追悼行事が開かれました


国際軍事法廷ニュルンベルク裁判などでナチスの犯罪が裁かれアウシュビッツは悪の象徴として世界中に知られていますが その存在はすんなりと受け入れられてきたわけではありません



アウシュビッツ巡る裁判


昨年公開された英米合作映画「否定と肯定」は 1996年 英国の男性歴史家アービング氏をホロコースト否定論者と批判したユダヤ人女性歴史家リップシュタット氏が逆に名誉毀損で訴えられた実話をもとにしています


アービング氏は在野の研究者, 第二次世界大戦に関する著書を続々と出版しガス室などによるホロコーストを否定, ネオナチらの支持を得ていました


英国の裁判では 訴えられた側に立証責任がありますが 弁護団はリップシュタット氏に発言させずホロコースト生存者にも証言させませんでした


双方の主張を同じ土俵に乗せるのではなく アービング氏の虚為を徹底的に追及する戦術です


収容所には毒ガス「チクロンB」を投げ入れる穴は存在せずガス室はなかった--との主張に対しては 米軍が撮影した収容所の航空写真を証拠に 屋根に円中状の穴があったと反論した


アービング氏の日記や講演から「」などの人種差別的発言や姿勢を暴き出し ホロコースト否定につながったとも指摘した


2000年に下された判決ではリップシュタット氏が勝訴しアービング氏の上訴も退けられて確定しました


ガス室は証拠隠滅を図るナチスによって破壊され遺体は焼却され ホロコーストの真実の解明には困難も多くありました



ドイツも損なう うそ


当初 収容所を解放したソ連の調査でアウシュビッツの犠牲者数は約400万人とされたが ポーランドは冷戦後 移送記録などをもとに確認できた犠牲者は110万人程度と修正しました


しかし南京事件のように死者数を巡る論争はなく ホロコーストの責任を認め過ちを繰り返すまいと誓うドイツの姿勢は一貫しています ホロコーストの本質は数ではない との合意が出来上がっているのでしょう


そんなドイツにもホロコーストを否定する女性(89)がいます