「教育に關する勅語」演習問題 模範解答(第2段 6節〜8節)

【ちよつと待て】演習問題に挑む前に「語解」「大意」を熟讀しませふ → 帝國通信講習會『教育勅語義解』を讀め


【原典】帝國通信講習會『教育勅語義解』明治31年11月


【出典】日本大學精神文化研究所 日本大學教育制度研究所 編集發行『教育勅語關係資料 第五集』1977/09/30發行 433〜464頁


第二段第六節

學を修め業を習ひ以て智能を啓發し・器を成就し 進て公益を廣め世務を開き

【設問II-VI 1】智と徳との關係は如何

智徳共に人性の天賦に萌芽し來れる者にて智は主として事物の眞相を観察し 之を眞正に理會するによりて進み 徳は主として意思を修練して 實踐躬行の力に富ましむるに依りて成る. されば智と徳とは別立せるが如しと雖も 兩者は元來極めて密着の關係を有するものとす. 例へば人 善を履み正を行はんと欲する意思あるも 事に臨みて之を推斷判決するの智力なければ 善惡の判定を誤りて 知らず識らず不善に陥ることあるべく 又善惡邪正の差別を識るも 之を實行するの意思薄弱なるときは 正と知りつつ正を行ふ能はず 邪と知りつつ邪を踐むの失態を呈することあるべし. 故に徳を以て智を制するに非ざれば 即ち其の智正しきを得ず 智を以て徳を輔くるに非ざれば 即ち其の徳全きを得ず 是れ叡智徳相俟つて 須臾も離るべからざる所以なり

【設問II-VI 2】古來學業を修習して能く智能を啓發したる人を擧げよ

學業を修習し以て知能を啓發したる人 古今其の例に乏しからず. 然れども其の最も世人の龜鑑ともなるべき人二三を擧ぐれば 塙保己一の如く盲者にして 賀茂真淵の門に國學を修め終に群書類縱一千二百七十部六百七十巻を編成し 次いで續篇一千八百部を集めたるが如き 圓山應擧が猪の伏したるを描かんと志し 或る老婆に依頼して終に竹藪の中に伏したる猪を冩生することを得たるが如き 柘植如水が大學の講義を傍聽し明徳を明にするといふ語を聞きて職業の餘暇心を學問に傾け終に比類なき學者となりしが如き 加賀千代女が蘆元坊の旅宿に就いて終夜郭公の題にて俳句をよませられ曉にいたりて始めて「ほとときすほとときすとてあけにけり」といふ名句を得,この心にて怠らず斯の道を學び,終に名聲を天下に壇にするを得たるが如き 皆學業を修習して非凡の事業を遂げたるものといふべきなり

【設問II-VI 3】公益とは如何なる事をいふか 又其の必要を問ふ

道路を開き,橋梁を架し,水利を興し,凶災に備へ,或は運輸,製造,漁獵,種藝等の改良進歩を計り,學校,病院,書籍□等を新築し,或は荒野を拓き,赭山(禿げ=あかつち山)を林とし,以て共有基金を作るが如き,或は資を獻じて軍備を助くるが如き,これ皆公益の事業にして其の他尚枚擧するに□あらざるべし


さて今や汽機電機の巧,日に進み,縮地の術,月に普きに至りてより,天涯地角宛も比隣の如く,国際頻繁競争愈愈甚しきを加ふるの時期とはなりぬ. さればこの時に當り國威を宣揚し國家の安寧鞏固を計らんには吾等臣民の戮力(戮=殺す 力)協心更に前日に倍□(草冠に「徙」五倍の数)せんことを要す. 然るに此の心なくして徙に我が一身の安逸をのみ貪り進みて世上一般の利益を廣め世務の改良上進を計るの要務を□かせにせんか終には利己的事業にのみ狂奔して同胞相□ぐの醜を呈するに至らん. かかる時はこの金甌無缺の帝國をば何によりて擁護すべき. されば吾人は益々徳性を涵養し四千餘萬の同胞兄弟と相提携□して下は自他の幸福を増進し上は國家の基礎を鞏固ならしめざるべからず. これ公益を圖るの必要なる所以なり

【設問II-VI 4】古來公益を成したる人と其事業を擧げよ

五代将軍徳川綱吉の母桂昌院隅田川下流に兩國橋の一つのみにては通行の不便少なからずとて将軍に請ひ今の新大橋を架せしめたるが如き 又野中兼山が土佐國に蛤蜊の産せざるを嘆き江戸よりの歸途許多の蛤蜊を□齋して□く之を海中に投じ以て其の繁殖を計りたるが如き 又二宮尊徳が鞠躬盡瘁して下野國の癈村を開拓し或は日光開拓の命を奉じ□生の力を盡してこれに縱事したるが如き 佐藤信淵が津山侯・久留米侯に招聘せられ物産を興して民利を増し堤防を修築して水害を除きたるが如き 又島津侯・田原侯・綾部侯等に招聘せられて【…入力 途中まで…以下略…】


第二段第七節

常に國憲を重し國法に遵ひ

【設問II-VII-1】 憲法とは如何なるものか

憲法とは統治者の権限を明にし又一般の臣民をして國事に参輿せしむるの方法を定め又臣民の身體生命財産名譽等に關する権利を保全し以て公共の安寧秩序を維持し國家の幸福を増進するの目的を以て欽定頒布せられたるものなり


爰(ここ)に憲法の大綱を略擧すれば我が帝國憲法は七章七十六章より成り第一章は天皇の特権を示して十七條あり 第二章は臣民の權利義務等を規定して十五條あり 第三章は帝國議會の制を規定して廿二条條あり 第四章は國務大臣及び樞密院顧問の制度を規定して二條あり 第五章は司法の制を規定して五條あり 第六章は會計の事を規定して十一條あり 第七章は補則にして四條あり

【設問II-VII-2】 我が國の憲法制定は西洋諸國のと 同趣意なるか 如何

我が國の憲法制定は西洋諸國の憲法と大に其の制定を異にせり 抑々西洋諸國の憲法たるや一國の人民が其の帝王の政權を停止し抑制せんとして多くは慘風悽雨血を濺(そそ)き骸を曝したる結果として發生したるものにして不祥之より甚しきはなし. 然るに我が國の憲法は全然其の本源を異にし畏くも詔勅に示し給へるが如く祖宗の惠撫滋養し給ひし所の臣民なるを念ひ其の康福を増進し其の懿徳(いとく)良能を發達せしめんことを念ひ又其の翼賛に依り輿に倶に國家の進運を扶持せんことを望ませ給へる者なれば取りも直さず聖恩の隆渥なるより制定せられたるものにして約言すれば彼れは擾亂(じょうらん)の餘に成り此は太平の嘉象たり 彼れは人民の手に成りて王者を要して承諾せしめたるもの 此は欽定恩賜(きんていおんし)の憲法成りとす. されば西洋諸國の憲法とは正反對なりと知るべし

【設問II-VII-3】知らずして國法を犯すは罪とならざるか如何

抑々國法は其の國體に基き國情を參酌して制定せられたるものにして 國家を經理し臣民の安寧を謀らせ給ふに於て必須缺くへからざるの鋼紀たり. 故に臣民の分としては必ずこれを重しこれを守らざるべからず. 是れ即ち聖旨に縱ふ所以にして臣民たるものの義務實に此に在り然るを己の粗忽怠慢よりして不識の間に之を犯せりとて犯せる罪は遁るべからず. 啻(涙を流し声を上げ泣く)に國家の罪人たるのみならず 聖旨に違ひ 聖恩に背く者にして 不忠不義これより大なるはなし. 國法は總て犯罪の實跡を以て論ず 知ると知らざるとを以てせず されば小心翼々として常に國法に違はざらんことを心がくべきなり

【設問II-VII-4】古來能く國法に遵ひて其の義務を果たしし人の例を擧げよ

我が帝國の臣民は古來淳良にして能く義務を盡くししを以て此れが適例を擧ぐること却て甚だ困難なりと雖も 普通の修身書などに引用せるものに就きて 其の著しきものを擧ぐれば左の如し


二代将軍徳川秀忠の乳母の子法を犯して罪に處せらる. 然るに其の母病にかかりて甚だ危し. 将軍之に再三再四 其の言はんと欲する所を問う. 乳母涙を流して曰はく. 君が重ねて妾の望を問ひ給ふは 賤児童の罪を許して妾が心を慰めんとの御意なるべし. 御恩の程は忝(かたじけな)く存ずれども 彼は國法に背きしものにて 天下の罪人なり. 私情を以て之を宥すべきに非ずとて これを辭したるが如き, 徳川光圀が西山の山中に退隱して山間の地所を拓き, これを耕作して公の掟を守りしは勿論, 年々の租税なども期限をあやまらず納めたるが如きは皆能く國法に遵ひ己れの私情を以て公法を枉(ま)げざるものといふべきなり


第二段第八節

一旦緩急あれは義勇公に奉し

【設問II-VIII-1】 國民たるもの 義勇の念に乏しき時は 其の國は如何に成り果つべきか

凡そ國の興廃存亡は 其の國民たるものの元氣如何に起因するものにして 強ちに堅艦利器の備否如何に因るものに非ざるなり. 否らざれば國家は終に衰亡敗頽の域にあるを免れざらんとす. 嗚呼金甌(きんおう?)無缺の此の帝國を保持して 皇威を海外に輝さんとするものは常に義勇の念を素養せんことを要する

【設問II-VIII-2】 義勇公に奉ぜしものの例をあげよ

個人の義勇奉公の例を擧ぐれば 古より忠臣として稱せらるたる人々は皆此れなり. 殊に【…以下略…】


第二段第九節 以て天壌無窮の皇運を扶翼すへし

【設問II-IX】 我が國の天壌無窮に榮えんことは,何によりて之を知るべきか

昔皇祖天照大神のこの國を皇孫に授けて 天っ日嗣を定めさせ給ふや皇祚(こうそ)の隆ならんこと 天壌と輿に窮りなかるべしと 宣はせ給ひ 又三種の神器を授け給ひて 永く皇位の御しるしとし給へり. 而して現時の天地は古の天地と異ならず 日月又毫もその光を變ずることなく 千萬年來皇統一系連綿として絶ゆることなく 皇運益々隆昌にして 神器亦輿に現存す. 嗚呼皇祖の聖勅千萬戴の下今尚明驗あり. されば今後の皇運を察し奉るも 萬代不易なるべきは 昭々乎として是れ彰かなり. 誰かこれに一點の疑を存するものあらん