東京新聞2017/02/09 29面【特報 本音のコラム】

知と権力の慢心

    竹田茂夫



原政権の指南役然とした経済学者が奇妙な一文を書いている


黒田日銀の異次元緩和でインフレ喚起が可能だとする理論は間違っていたが、その理論に基づいたアベノミクスは大成功だったという


状況次第で理論を着替えるのでなければ、インフレという的からは大外れでも株や為替で大当たりしたから構わないとでも言うのか。理論的反省もなければ、将来不安や不安定雇用への対策もない


当の指南役を改心させた理論とは?企業の将来収益の予想が株価を決めるように、国の将来収益(財政余剰と通貨発行益)の予想が国債の実質価値、つまり額面価値÷物価水準を決めるという。国が財政健全化をサボり今後増税などいたしませんと宣言すれば、インフレ期待が醸成され物価が上がるというのだ


この『物価の財政理論』には理論と実証から多くの疑問があるが、政府や中央銀行が国民の頭の中(期待形成)を左右できるとする根本的な思い違いに基づいている。黒田日銀の『インフレ目標によるデフレ脱却論』と同じ誤りだ


経済学者は複雑怪奇な社会現象を単純な方程式にまとめる。これを眺めていると、変数を動かして世界を操作できると思えてくるから不思議だ


だが、危うい信頼の原理に支配される現実の通貨共同体を捉えるのは至難の技だ