【海賊版】竹田茂夫 具体的危険性

出典…東京新聞


2014/05/29朝刊(25面)【特報/本音のコラム】

具体的危険性

竹田茂夫

先日,福井地裁は大飯原発再稼働の差し止めを命じた. 判決は,地震動が苛酷事故を引き起こし,実際に住民の生命と生活を広範囲に脅かす可能性,つまり具体的危険性を根拠にしている



福島原発事故以前の原発訴訟は,二つの地裁判決以外はすべて反原発の原告側の敗訴であり,この二つも上級審で覆された(『原発訴訟』)


原発訴訟 (岩波新書)

東電に限っても危険性の兆候はいくつもあったのに,何故多くの裁判官は認識できなかったのか. 行政の安全審査への信頼や原発の危険性は抽象的なものにとどまるとのレトリックで,あえて見なかったというほかはない. だが,福島以降このような意図的な無視はもはや不可能だ



水俣病訴訟の口頭伝承がある. 第一次訴訟で重い腰を上げた熊本地裁の裁判長が胎児性患者を実地に見て衝撃を受け,明らかに裁判の指揮が変わったという. 翌年には一週間の現地尋問で患者の窮状をつぶさに知るに至る(全国連『水俣病裁判』). 1973年の判決は画期的なものだった. 水俣病の劇症患者や胎児性患者の惨状は見れば明らかであるし,発病の因果関係も早い段階から分かっていた. それでも今なお最終解決に至っていない


水俣病被害者弁護団全国連絡会議『水俣病裁判』かもがわ出版
isbn:9784876993376

裁判所が目を見開いて具体的危険性をしっかり見るためには,もうひとつの福島や百年裁判が必要なのか





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