【海賊版】斎藤美奈子 70年前の警句

出典:東京新聞2014/05/28朝刊(27面)特報/本音のコラム

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70年前の警句

不世出の外交評論家・清沢洌(きよし)の『暗黒日記(2)』(ちくま学芸文庫)にはこんなくだりがある


行政と政治が若い連中に渡って,大東亜戦争は必然であった. 下剋上の現象が国家を冒険に赴かしめたのである


これは太平洋戦争に突入して3年目,1944年5月20日の日記である. 同じ年の7月17日にはこんな記述も


大本営には連絡会議があるが,決定機関はない. 攻略と作戦には知識が這入って行く機会がなく,若い参謀と,東条などの「かん」で決定されている. 日清,日露戦争には明治天皇を中心に,伊藤,山県等の元老が議をねった. これが現代と異なるところだ


誰に似ているとはあえて申しませんけどね. 解釈改憲だ,集団的自衛権の行使容認だ,グレーゾーン事態だ,駆け付け警護だと騒ぐ人々を見るにつけ,重要な案件が【若い参謀と,東条などの「かん」】で決定された時代をつい想起する



インパール作戦の失敗やサイパン失陥を受け東条内閣が総辞職した際の『暗黒日記』7月20日の感想は


これくらい乱暴,無知をしつくした内閣は日本にはなかった. 結局は,かれを引き廻した勢力の責任だけれども. その勢力の上に乗って戦争をしていた間は,どんな無理でも通った


70年前の日記が今でも通用する怪奇. 同じことを何度繰り返せばすむのかね


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清沢洌『暗黒日記(2)』ちくま学芸文庫


暗黒日記〈2〉 (ちくま学芸文庫)