宣撫班よりも女が先に行き

高崎隆治選著『教科書に書かれなかった戦争Part.11 川柳にみる戦時下の世相』(梨の木舎 1991/07/19)


教科書に書かれなかった戦争 (Part 11)



第5章 戦場の兵士 慰安婦・苦力・行軍・落書き より

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■篭の鳥いま大陸で荒れ廻り 磯部南泉【p.198】


新聞の特派員として漢口戦に従軍した作家の井上友一郎が書いている。


前線へ赴く途中のある夜、町でふと三味線の爪弾きを聴いた。不思議に思い近づいてみると、浴衣を着た女がひとり立膝をして三味線を弾いていた。「今晩は」と声をかけたところ、その容姿に似合わずいきなり伝法な口調で、「ここはお前たち軍属ふぜいの来るところじゃない」とわめいた。連れの記者が腹をたて、「てめえ自分が将校になったつもりで威張るな」と怒鳴り返したという。


将軍クラスの軍人が、水商売の女性をいわば妾として連れてきたのだろう。あるいは将校用の女性であったのかもしれないが、それでも依然として「篭の鳥」であることにかわりはなさそうだ。

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■宣撫班よりも女が先に行き 城鶴【p.199】


娘子軍一線までも進出し 城鶴



宣撫班は後方の占領地を担当する班と、第一線部隊に膚接して占領直後の町に入り住民を宣撫する班の二つがある。


この句は説明するまでもなく後者だが、宣撫班よりも早く占領地に入る「女」というのは戦場慰安婦のことで、日本軍は彼女たちを公認し引き連れていたのである。まったく、驚きという以外にないが、彼女たちの大部分は朝鮮人で、よいもうけ口があるからと、言葉巧みに騙されて連れてこられたのだ。中国では戦う女性兵士を娘子[じょうし]軍と呼んだが、日本の兵士が口にする「娘子軍」とは慰安婦のことである

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■珍しいものにされてるゴムバンド 梶原渓々【p.75】


いうまでもないが、ゴムバンドとは輪ゴムのことである。戦前は一箱5銭か10銭で文房具屋にいくらでも売っていた。もっとも、普通の家庭では買わなくても捨てなければ輪ゴムは自然にたまった。それが、アメリカやイギリスの経済封鎖でたちまち店頭から消えた。私事だが、日中戦争の初めのころ、競馬場の小窓に黙って手を入れると、どういうわけか輪ゴムをひとつかみ掌に乗せてくれるので、子供たちはそれを遊び道具に使った。


経済封鎖と同時に、ゴムは軍需専用となり、ガスマスクの管や代用軍靴の靴底などに用いられた。特に軍用コンドームの製造に優先的に使われたというが、子供の遊び道具をとりあげてそんなものをつくるようでは「大日本帝国」もおしまいである。

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■帰還した軍医が婦人科に勤め 以兆【p.222】

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[目次]


解説:高崎隆治


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花柳病の積極的予防法【1939年手書き】麻生幾男軍医少尉


武昌の柳(私娼の由来及現況)【1941年手書き】


写真資料10点/麻生幾男蔵


「軍人倶楽部に関する規定」(内務規定)【1944年12月ガリ版】山第3475部隊


不二出版 1990/02/20