餃子報道(3)
朝日新聞 2008/02/17 ゴキブリ退治,苦闘の歴史 駆除商品と「進化」競い合い http://www.asahi.com/special/080130/TKY200802170002.html
日経新聞 2008/02/18 中国製ギョーザ被害 2月18日 07:00 スピードか精密検査か,殺虫剤検出で異なる基準・ギョーザ中毒事件 http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt213/20080217SSXKA009517022008.html
中国製ギョーザの中毒事件で,回収したギョーザの検査を進める日本生活協同組合連合会(日本生協連)や日本たばこ産業(JT),厚生労働省などの間で,有機リン系殺虫剤「メタミドホス」の検出の目安となる限界値が,0.01-0.2PPMと大きく異なっている. 健康に影響がないと考える範囲内で検査のスピードを重視するか,精密さを重視するかの違いだ. 前例のない中毒事件だけに模索が続きそうだ.
厚労省は今月4日の事務連絡で,食品に残留するメタミドホスの試験法を提示した. 「高濃度に残留するメタミドホスの検査を目的とするもの」と前置きした上で,限界値を「0.2PPM」に設定. これ以上のメタミドホスが含まれているかを調べるよう求めた.
ppmは濃度の単位(1:10e-6 1ppm=10e-4%=1mg/kg),日経新聞はあいかわらず「PPM」が続く. *1 *2
農林水産省HPより
メタミドホスとは http://www.maff.go.jp/j/syouan/0801_gyoza/kihon.html
農薬登録 我が国では農薬登録されていない.
特徴
* 有機リン系化合物
* 殺虫剤として農薬登録している国もある
* 有機リン系殺虫剤であるアセフェートが植物・動物体内で代謝されてもできる
安全性
急性毒性(一日の摂取で健康に悪影響)
* ARfD(急性参照量;一日ここまで経口摂取しても健康に悪影響が出ない量) 0.01mg/kg体重/日(FAO/WHO合同残留農薬専門家会議による) *3 *4 *5
設定根拠 ラットに一回経口投与して神経毒性を観察した試験で神経毒性が見られなかった最大濃度0.3mg/kg体重を安全係数25で除し,切り下げた
症状
ある程度以上経口摂取すると,胃けいれんやけいれん,下痢,吐き気,嘔吐などがみられる
慢性毒性(食べ続けると健康に悪影響)
* ADI(許容一日摂取量:毎日一生食べ続けても健康に悪影響がでない量)
0.004mg/kg体重/日(FAO/WHO合同残留農薬専門家会議による)
設定根拠 2年間ラットに給餌して,健康への影響や発ガンを観察して試験で,悪影響が見られなかった最大濃度0.1mg/kg体重を安全係数25で除した
今回の事件との関連
残っていた当該商品の包材,被害者の吐瀉物からメタミドホスを検出(濃度は不明)
ジクロルボス(DDVP)とは http://www.maff.go.jp/j/syouan/0801_gyoza/ddvp_kihon.html
農薬登録
我が国で農薬登録がある.
適用作物:トマト・レタス等の野菜,かんきつ等の果樹,茶,花き等幅広い作物
特徴
* 有機リン系化合物
* 中国,米国,豪州等においても殺虫剤としての農薬登録がある.
* 農薬としての国内出荷量:508トン(18農薬年度(平成17年10月〜平成18年9月))
安全性
残留基準値
多くの野菜や果物等:0.1ppm
多くの穀類:0.2ppm
急性毒性(一日の摂取で健康に悪影響)
* ARfD(急性参照量;一日ここまで経口摂取しても健康に悪影響が出ない量)
国際的に合意された数値はまだない.* 各種急性毒性試験で,健康への有意な影響が見られなかった最大投与量が最も低かった試験は以下の通りである.
- ラットに0.8mg/kg 体重/日 経口投与して神経系への影響を観察した試験では,その指標に有意な変化が見られなかった.
- ヒトに1回1mg/kg 体重/日 経口投与して神経系への影響を観察した試験では,その指標に変化が見られなかった.
* 症状 ある程度以上経口摂取すると,胃けいれんやけいれん,下痢,吐き気,嘔吐などがみられる.
慢性毒性(食べ続けると健康に悪影響)
* ADI(許容一日摂取量;毎日一生食べ続けても健康に悪影響がでない量) 0.004mg/kg 体重/日(FAO/WHO合同残留農薬専門家会議による)
* 設定根拠 21日間ヒトに経口投与して神経系への影響を観察した試験で,その指標に変化が見られなかった最大濃度0.04mg/kg体重を安全係数10で除した.
今回の事件との関連
残っていた当該商品のギョウザ本体からジクロルボスを検出(詳細については,日本生活協同組合連合会の公表資料を参照)..
愛知県衛生研究所化学部 http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/3f/chemistry.html
G.Schwedt/中嶋暉躬監訳『分析化学アトラス』を読んでみる. 第1章「基礎概念」第2章「試料の調製」から始まって,第3章以降各論. 11章「特殊な応用分野と方法」11.8「殺虫剤または残留物分析」冒頭より抜書き.
殺虫剤あるいは残留物分析は基本的に微量成分の分析手順を含む. 重点になるのは試料の調製,いわゆる前処理であり,これは試料の種類(動物または植物由来の食品)や,定量法の選択性に適合するものでなければならない. 分析のためにここで第一に問題になるのは,特殊な検出法を用いるクロマトグラフィの手順である.【G.Schwedt/中嶋暉躬監訳『分析化学アトラス』文光堂 1994/05 isbn:4830601051 p.220】
厚生労働省「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法」http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu3/siken.html
- アセフェート、オメトエート及びメタミドホス試験法(農作物)http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu3/2-012.html
- ジクロルボス及びトリクロルホン試験法 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu3/2-069.html
木村et.al「農産物注の汗フェーと,メタミドホス,ジクロルボス及びトリクロルホンの分析法の検討」『長崎県衛生公害研究所報』50,(2004)[pdf] http://www.pref.nagasaki.jp/eiken/kankoubutsu/shohou50/shiryo/shiryo13.pdf
鈴木et.al「LC/MSによるアセフェート,オメトエート,メタミドホス同時分析法」『札幌市衛研年報』33,57-62(2006)[pdf] http://www.city.sapporo.jp/eiken/annual/no33/06study05.pdf
*1:0.2ppm検出は 餃子1kgから 0.2mgを検出したことになる
*2:CO-OP手作り餃子40個入りは560grなので餃子1個は 15g, 1kgは餃子71個に相当する
*3:ARfD 0.01mg/kg体重/日::体重50kgの人ならば, 0.5mg[の数倍]までは口に入れてもたまたまならば大丈夫
*4:千葉で検出されたのは130ppm,餃子7個100grに13mgのメタミドホスが含まれることになる
*5:ARfDについては Guidance on setting of acute reference dose (ARfD) for pesticides http://www.who.int/ipcs/food/jmpr/arfd/en/index.html ,食費安全情報blog 2006/02/10参照