戦争の本質を教えるための従軍慰安婦
三番目の論拠の検討に移ります. 日本軍慰安施設のみを取り上げるのは不公平だということですが,外国の場合,占領軍の慰安所[*1]等も教えるべきかですが,時間の余裕があれば当然教えるべきだと私は思います. ただ,教科書にそれをすべて書いていくとすれば,教科書はスペースが限られております. 中学校の教科書は世界史と一緒に入っておりますので,とてもそんなに詳しく書ける余裕はないという問題があると思います. したがって教員がこれを教える場合,どう準備するかという課題の問題ではないかという気がいたします
それから「なぜ中学生に教えるのか」ということも大きな問題になるかと思います. 私は旧日本軍の暗部を暴くということで教えるということではない. あるいはそういう教え方はすべきではないと思っております
一つは,日中戦争や太平洋戦争の本質を考える一つの素材として取り上げたらどうかということです. 同じことを繰り返さないということを学んでいくことが大事だと思います
資料の 9 を見ていただきたいと思います. これは自民党の後藤田正晴先生が朝日新聞の取材に答えて,いわゆる加害をどう伝えればいいか,こう言っておられます
「満州事変以降の日本の大陸進出はどんなに言い繕っても侵略であることは間違いない. 朝鮮半島の植民地統治の事実も否定しようがない. そういう歴史的事実を教え,率直に反省すべきことは反省しなきゃいけない. こういうことは繰り返すべきじゃないよという教え方がいいのではないか」
と. 私もこの考えに賛成であります
それからもう一つの問題ですが,慰安婦問題は,性暴力の問題と関わってくるわけです. 戦時性暴力は旧ユーゴの例もそうですし,つい最近では駐留軍による性暴力では,沖縄で米兵による小学生のレイプ事件がありましたけれど,そういうことが繰返し起こっております. そういうことをなくしていくにはどうしたらいいのかみんなで考えていくということは重要なのではないかと思います
それから三番目,日本人の歴史認識を鍛えることも重要だと思います. これはもちろん,アジアでいちばん早く近代国家をつくり上げてきたという積極的な側面と,しかしその中には暗い面もあったという両方を見つめて,日本人の歴史認識を鍛えていく. しかも世界やアジアに通用するような歴史認識を育てていくことが必要ではないかと思います
これはハーバード大学の入江昭先生がアメリカではどうかを述べておられます. バージニア州という比較的保守的な州でもこういうことが行われているという例を紹介しておられます.「将来のために過去を学ぶ. これは市民教育の出発点だろう」と言っておられます.「それではどのような過去を学ぶのか. アメリカ史では既に小学校1年生の段階で奴隷制について学び,6年生は世紀に入ってからの黒人差別,失業問題,マッカーシズムなど暗い側面にも光をあてることが基準とされている」と書かれております
いちばん最後のところですけれども「今からでも遅くはない. 初等教育のレベルから,次の世代が世界及び日本の過去について自由に討議する雰囲気を作り,将来世界の人々と対等に接する基礎を養っていくべきだろう」とおっしゃっておられますが,こういう未来のための教育という視点が重要ではないかという気がいたします
最後に一言申し上げたいと思いますが,教育内容に政治が介入することについては,できるだけ自制していただきたい. と申しますのは,何が事実であるのか,何が真理であるのかということは,多数決に馴染みませんので,その点ではぜひ慎重にしていただければと思うわけであります
ちょっと時間が超過したかしれませんが,一応私が準備しましたことは,これぐらいであります, 御質問があればあとでお伺いしたいと思います. 御静聴ありがとうございました(拍手)
自見庄三郎座長 吉見教授,ありがとうございました. それでは藤岡教授から話を聞いたあと,質疑応答に移らせていただきたいと思います. それでは藤岡教授にお願いいたします