兵士Aの「土匪掃討作戦」参加報告

兵士Aの「土匪掃討作戦」参加報告(入力中未完成)


中支派遣軍柳川本部隊小泉部隊今井隊本部所属 一等兵Aが「土匪掃討作戦」参加の日記=1938年3月3日=を知り合いに送ったもの=手紙=軍事郵便は 1938年3月10,11,12,13,14日に書かれた[出典: 『歴史評論』2007/2月号 No.682 p.12-26 新井勝紘「パーソナルメディアとしての軍事郵便 - 兵士と銃後の戦争体験共有化」]


[第1信]


[第2信]


[第3信]

ならでは見られない一情景である. やがて穴は掘りあげられた. 土匪が先づ,十人ほど穴の前に立たされたのだ. 兵隊も十人,銃に釼をつけて並んだ. 其の間,三間ほど. 隊長の「突け!」と云ふ号令一下,時ならぬカン声と共にズブ□□□□,血が走った. 胸から背に銃口まで突抜かれたかと思はれるほど,アツ口から血がドク□□流れ出るものも居る. 突く者も,突かれるものも,顔は全く青白だ. 真釼だ. ウーッ□□□とウメキ声が穴の中で聞える. 未だ生きて居る者もある. 二人,三人,又突いた. 其の度毎に足をグッとのばし手をのばし,ケイレンを起すのだろう. ブル□□ッとふるえる. 死の断末魔だ. 又次の十人が並んだ. 入変った兵隊も又並んだ. 土匪は前の恐ろしい光景にオビエてか,其の一人が又二人座ってしまった. シーサン□□□□と頭を下げ,変な手つきをして何か分らないことをベラ□□シャベッて居る. キット助けて呉れと云ふのだろう. 何の奴を見ても生きた顔をして居るのは居ない. 再びの号令「突け!!」とドッシリと底力のある号令が下されたと思ふ途端,突かれない先に穴に飛び込んだ. 其の後から銃釼はズブ□□. 丸で豆腐でも突く様に見える. 其の度毎にドク□□と血が流れた. 穴の中では,ウーッウーッと云ふウメキ声が聞える.


第三番目に又十人並べられた. 其の五十米ほど前には重機関銃が据えられたと思ふ時,一人の老人がヒタ走りに走って来た. そして其の並ん[ママ]居る十人の前に立ちふさがった. 隊長は老人に逃げる事を通訳を通じて


今日も送ります. 第三回目の日記の続きです. 何うです. ものすごいでしょう.

  C殿  三月十二日   A



[第4信 1938/03/13]

命じたが,其の前に座ったまま頭をペコ□□下げながら,何か不明なことをベラ□□真釼になって云って居る. 通訳させると,之は皆百姓だから助けて呉れ,悪い奴は皆な逃げてしまったのだと云ふ意味らしい. でも支那人は実に嘘が上手だからと説明した. 止むを得ない.「撃て!!」号令一下,バラ□□□□□□,文字通りの将碁倒しだ. 機関銃ではたまらない. 然し,念の為に又銃剣でブス□□□□と突いた. そして穴の中へほうり込んだのだ. 其の時一人の土匪が見て居て,あまりの恐ろしさに何う血迷ったか,何として縄をといたか,一散に逃げ出したのだ. と同時に,十五六の小銃は其の土匪に向けられた. パン□□□□□□,中々当らない. やがて二十発も射ったかと思ふ時,先ず足に当ったのだろう. バタッと倒れた. そして又起きて逃げ初めた. 其の時又後の一発が完全に当ったのだ. 倒れたまま,二三回動いたのみで全く動かなくなってしまった. 何と四方は火の海をあびて,前は血の川のように流れて居る. 丸で地獄其のものだ. 次の十人も又並んだ. 小銃隊が之を銃殺した. 当たり所で血をはく者,前向きに倒れるもの,後向きになった 穴の中に飛び込む者,又しても其の後から銃釼がズブ□□突きさされた. 火は益々激しく燃えて居る. やがて夕もやがせまって来かかった. 隊長の命令で一と先づ,中止された. そして穴に這い入った死体の上に


今日も,送ります. 第四回目です. 何んなものですね.

  C殿  三月十三日   A



[第5信 1938/03/14]

藁が敷かれ,石油がかけられ火が放たれた. ボッと燃え上がった. 一思ひに焼いてやろうと云ふのだ. 火はドン□□燃え盛った. 未だ死に切れない奴が居たのだ. モクッモクッと二三人着物に火のついたまま,這い上がって来た. 全く火だるまだ. シーサァーン□□□と悲鳴を挙げて居る. 火だらけの着物でもがき, それをチギッて居る様,之こそ生き地獄だ. 誰も其のものすごさに殺しに行く者もない. それを見て居た片岡将校が,軍刀を引っさげて走った. バサッ□□□と首を切り落としてやった.


もう淡暗い中に火丈けが愈々赤い. 気が違った様になった中年の女が,焼けて居る家にクリークの水を掛けて居るのもある. でもそんなものには目もくれず,残った土匪の捕虜を全部つれて,本部に引き挙げたのである. 本部に着いた時は真っ暗で腹はペコ□□. 今まで張り切って居た気持が,急ゆるんだ性か,めっきりと疲れてしまった.血なまぐさい体を清める為に容易されてあった支那ガメの野天風呂に這入って来て食ふ飯のうまさ. でも考へ出すと,あまり良い気持のものでもなかった. 夜床に着いてもそれからそれと色々なことが頭の中に描かれて中々ねむれなかった.


今日も送ります.日記は第五,之で此の日の日記はおしまいです. 其の日の死体の写真を一枚入れませう. 然し之は秘密の写真ですから,他の人には見せないで下さい. 家の人だけで見て下さい.

  C殿  三月十四日   A