中村政則「現代民主主義と歴史学」(抄) 2/End

最近の日本近代思想史研究の方向は,どちらかというと頂点的思想家の研究よりは,むしろ民衆思想の研究にむかって大きく動きつつあるかに見える. そのため,家永の植木枝盛美濃部達吉研究のような頂点的思想家の研究に対する興味・関心はしだいに薄れつつあるのではないか. しかもそのような傾向が近代主義の限界を強調するあまり,それがついには反近代主義あるいはニヒリズムアナーキズムへの思想潮流へとつらなっていく契機を内包しているのだとしたら,私はむしろ家永的な頂点的思想家の研究の健全さを選びたいと思う. 現代のわれわれは,それほど簡単に「近代の超克」を叫べるほどには,近代市民精神をわがものとはしていないのである