それだから何かの事件にぶっつかる度に,われわれはその表面を見ただけでは,その裏側が解らないという疑惑に始終頭を労さなければならない. そして何かの事件の裏側には,始終政治的な何かの魂胆が隠されているのではないかと考えねばならないということは,実際言いようのないうっとうしいものである


もっと物事が明朗にならないものか. 物事の真相がもっと正直に民衆の前に告げられないものか


殊に最近の松川事件などを見ると,せめて裁判だけでも,公正にやってもらいたいものだと思う. 第一審で死刑その他の重い判決を受けた被告たちが,第二審で今その判決に抗争中であるので,今度こそはその真相が判明するであろうと思うが,私はどちらに荷担しているわけでもない. ただどんなイデオロギーの政治であっても,裁判だけは公正にやってくれるものということが信じられなければ,生きているのが不安でやりきれないと思う. 無実の罪が警官や検事によってネツ造されるなどということがほんとうにあるのかどうか,そんなことは信じたくないために,第二審はあくまで厳正であって欲しいと思う


あの問題はあの被告等が無実の罪だったとすれば,一体それではあの恐るべき列車の転覆が何者の手によって,どういう目的でなされたものであるかという処まで,追求されて欲しい. それでないと,われわれは不必要な想像力を働かして,精力を浪費しなければならないからである. いずれにしてもこの事件が,何らかの陰謀によって起こされたものだったら,安心して汽車にも乗っていられない(作家)