上代人の夢・神話 津田氏の画期的三著

並木 所謂神話,伝説について児童たちにどう説明すべきか


家永 一度白紙の状態にかへつて出直した方がよいとおもふ. 神話はそのまま本当にあつたのではない. それは昔の人が書いた夢であり,理念であり,■■であつたしかも神話,傳説が出て来るのは余り古い時代ではなく少なくとも國家として統一された時から始まるものであることを説明すればよいとおもふ


班目 神武天皇の御名前を「神日本磐余彦天皇[かむやまといはれひこのすめらみこと]」とした理由は


家永 神武といふのは平安時代に贈られた諡号で漢風であり,むしろ古い日本風の称号[?]すめらみことを示したかつたからである


湯田 上代史は神話の要素が多く取扱ひに困るから是非とも史観養成のための補助教材がほしい


家永 それは是非必要だ. 近く毎日新聞社から出版される『日本の歴史』はさういふ参考書としては手頃だとおもふよ


磐田 今度の教科書には圖版が非常に乏しいが少なくとも教師用としてもっと圖版,圖録の豊富なものがほしい


山形 有史以前の研究ではどんなものがよいか


家永 誠文堂新光社の『日本文化史大系』第一巻「原始社会」がよく,考古学研究では後藤守一氏『日本考古学』(四海書房,1927)も良い本である.濱田耕作/青陵氏『考古学入門』アルス日本児童文庫54,1929/9/[*1]は子どもに向いている. ついでだが人類史に関する書物としてはウェルズの『世界文化史大系』(北川三郎訳)が極めて興味深く書かれている


山形 津田左右吉氏の研究はどうか


家永古事記及び日本書記の研究』[*2]で神話伝説がそのまま史実ではないといふことを論証したことは画期的業績であるが,概して破壊的■現が大部分を占め,積極的,建設的な点が少ない. ただ神話の性質を理解するためには『神代史の研究』『日本上代史の研究』(岩波書店)と共に是非一読する必要がある. 日本歴史の通史としては岩波講座の『日本歴史』が特によく,その他では川上多助氏の『日本歴史概説』全2巻,岩波書店,1937,1940及び吉田良一氏の『概観日本通史』同文書院がよくまとまつている


湯田 日本の仏教史ではどんな書物が参考になるか


家永 橋川正氏[『綜合日本仏教史』目黒書店,1932]『概説日本仏教史』平榮寺書店が手頃であらう

*1:『考古学入門』講談社学術文庫,1976/06/30
考古学入門 (講談社学術文庫 17)

*2:古事記及び日本書紀の研究/建国の事情と萬世一系の思想』毎日ワンズ,2012/08/28

古事記及び日本書紀の研究―建国の事情と万世一系の思想