報告の要点(1) 現段階について

(1)現段階について



a. 急激なる没落の段階


嘗て吾々は, 農村の病弊,市場の枯渇,失業者の堆積,貿易の低調,労働条件の劣悪,財政整理闘争の激甚,小企業の没落と整理,資本の合同集中,特に金融恐慌等の事実を挙げて, 今日, 日本の資本主義は急激なる没落の段階にありと主張した[*1]


然しながら, 日本資本主義従来の発達の歴史を考へて見ると, だんだんかかる主張は誤つていることに気が付くのである. 明治維新の直後地主政府の手に依つて, 資本主義が植えつけられ, 次に其の保護の下に資本家自身の産業上の発達があり, 更に日清日露の戦争を経て急激なる発達, 世界戦争を経て一躍金融資本主義の段階に入つた. そこで日本資本主義は最初から順調なる発達の道を辿つていない. 国家権力の保護の下に国家権力によつて飛躍的に今日の段階に入った. 従つてそれ自身極めて複雑した矛盾の内包を表はしている. 即ち一方に於ては, 非資本主義生産関係及び最も後れた資本主義要素を持ち, 他方高度に発達した要素を持つている. そこでこの遅れた部分と, 高度に発達した部分の開きを見逃してはならぬ. そして此の矛盾を一層深めた世界資本主義の今日の情勢, 即ち今日, 世界資本主義は最後の段階即ち帝国主義時代に入つていること, 即ち朗かに世界資本主義は没落期にあることである. そしてその一環として日本資本主義も没落期にあるといふことである. そこで今日に於ては遅れた部分がそれ自身の順調なる発達によつて高度の段階に整理され又は進んで行くものであると考へられない. それは国家権力の強制的方法によつて整理される外にない, 然しそのことは勿論一方的な解決であるに過ぎずして, 根本的な解決でない. そこで結局解決されない矛盾の内包を益々深めることになるのである. ここに日本の資本主義の根本的な危機が存在する. 然しながら今日の段階は, この内包している危機を二進も三進も行けないやうな状態として表はれているものであらうか, 先の金融恐慌, 即ち前述せる内包せる矛盾の爆発に相違ないが, 然しそれは直接に今日の段階が急激なる没落の状態, 又は解体状態, 革命の前夜と云ふ様な急迫したる状態であると言へるか


今日に於てはたしかに内包せる矛盾を解決出来ず, 危機は刻々に迫つている. 第一に彼等は今日, 日本の帝国主義時代が内包する矛盾, 非資本主義的生産関係, 農村問題を解決することが出来ない. その上に帝国主義時代の資本主義関係は農村の疲弊を如何ともすることが出来ない状態に置く. 第二に市場の枯渇,従つて生産制限と労働条件の劣悪化,植民地掠奪の帝国主義的狂暴を逞しくせざるを得ない. 一方彼等は強制的な手段によつて財政整理や小企業の整理, 資本の合同を行ふ帝国主義の強力化,同時に他方農村の疲弊に伴ふ小農民の反抗と極度の圧迫を被る植民地民衆の反抗及労働者階級の反抗を強圧せねばならぬ. 即ち戦争と支那革命の弾圧と労働者農民及植民地民衆の暴圧は彼等のどうしてもとらざるを得ない道である. 然しながらこのことはそれ自身深刻なる危機そのものではないか. さればと云つて今日この危機そのものがどうすることも出来なくなつてしまつていると云ふやうな段階にあるとは云へない. 寧ろ彼等には,この危機を一時的に糊塗する所の力がまだある. 先の金融恐慌は, 9億の金を被支配階級から搾り取つて一時困難を切抜けてしまつた. 勿論これは将来に向つて更に強大な没落を予想するものではあるが, 強大な軍備を以て被支配階級を強圧する力は益々充実しつつある. それに日本の資本主義は戦後英,仏,独等の資本主義が崩壊したと同じ様な状態に陷つたことがない. 寧ろ戦後一貫して金融資本の段階に突入したといふ反対な関係にある. そして今日に於ても決して崩壊状態ではない. それ自身の内包する矛盾が益々大きくなりつつあり, 従つてそれの解決(出来ない解決だが)に弱りつつあるが, 然し決して崩壊状態と目すべきではなく今日と雖も未だ朗かに向上線を辿りつつあると見るのが正当である. 然し重工業に決定的役割を持つ石炭,鉄などの原料, 海外市場の奪取と戦争, 内包する生産関係及階級的の矛盾が国外的にも国内的にも資本主義そのものの危機を益々深めている. その意味に於て今日辿りつつある向上線は極めて制限されたものに相違ない



b. 没落期


「急激なる没落に合流している」とは, 全般的に日本資本主義は没落期にあるといふことを意味すると解する見解について


この見解は明かに言訳である. 今日全体的には世界資本主義は没落期にあるといふことに就ては異論はない. 従つてその一環としての日本資本主義も亦それに合流していると云ふことに就ても異論はない, 即ち没落期にあるが故に内部の矛盾を深めていると云ふことになるし, 又向上線を辿つているとしてもそれは極めて制限されている. 然しながら従来はさうは見ていない, 朗かに今日の段階を危機の爆発の段階, 矛盾の激烈なる爆発の状態, 即ち急激なる没落, 革命期又は解体期と見ていた. 従つて戦術は革命的の戦術であり即ち組合の革命的政治闘争即ち経済闘争を閑却してのその戦術としてゼネラルストライキ即ち暴動であると考へられていた



c. 安定問題


日本の現段階は安定しているかどうかの問題は議論にならない, 何故ならば, 日本の資本主義は戦後英, 佛, 獨等の資本主義が崩壊したと同じ様な崩壊の状態に落ちたことがない, 従つて是等の資本主義が崩壊の状態を一時的に恢復し, 今日は安定の状態にあるといふ範疇に於て考へられない. 日本は寧ろ戦後に於て発達した国即ちアメリカと同じ部類に属するのである



⇒(2)支配階級の構成について


a. 明治革命


b. 封建残存と専制遺訓


c. ブルジョアの政治的生長と今日の地位


d. 支配階級の構成


e. プロレタリアートの地位


f. 農民の地位



⇒(3)革命の展望について



(4)KPの問題


a. 主体の完成について


b. 分離結合について


c. 理論闘争について



(5)方向転換について


a. 組合主義


b. 折衷主義


(6)戦術について


a. 組合政策


b. 大衆政党合同問題


c. 協同戦線



(7)国際問題について


a. 革命の近接性と社会主義建設の条件


b. 日本帝国主義イデオロギー


c. コミンテルンの軽視



(8)テーゼの内容




*1:マルクス主義』3(4),1925/10 北条一雄=福本和夫「『方向転換』はいかなる諸過程をとるか--無産者結合に関するマルクス的原理」…関幸夫:1992:p.304