事態急変に処する問答案【帝国在郷軍人会足利郡連合】
事態急変に処する問答案
□戦後処理
問1. 何故斯んな事態になつたか
答 新型爆弾の出現と,ソ聯の参戦に因ること,大詔に拝する通りである
問2. 軍は何故最後迄戦はなかつたか,軍を絶対信頼せよ,必勝確算ありと国民の指導を今が今迄やつて乍ら
答 軍は勿論万死以て必勝を期したのであるが,天皇御親率の皇軍であり股肱である我々は御聖断に対し奉り絶対髄順こそ忠節であることを信ずる
問3. これから如何なるであらうか
答 天皇を戴き皇室を中心として進む国体には変りはない. 大御心即万民の心たる我国に在りては断じて変りはないのである,今までに倍して陛下と心を一にし団結を鞏固にして行かねばならぬのであるが,国民生活の上にも更に苦痛は加重せらるることは必定であらう,断乎忍苦に堪えて国体護持に進むだけである
問4. 国体は如何なるか(前答に略々同)
答 国体には依然変りはない,天皇を戴き皇室中心の日本帝国として存在する
問5. 食糧事情は如何なるか
答 当分の間増々苦しくなるであらう,航空燃料としての,あるこーる原料の藷が食料となるにはなるであらうが…
□敗戦時の対応
問6. 供出,配給は如何なるか
答 当分の間依然続けられるであらう
問7. 軍需工場は如何なるか
答 生産の停止,閉鎖になるであらうが一部は平和産業に振替へらるるものもあるであらう
問8. 工場を罷めたら如何なるであらうか
答 大部分は農業か其他の平和産業方面の仕事に就く如くになるであらう
問9. 紙幣は如何なるか
答 敗戦でないのであるから其の価値は今迄通りである
問10. 召集令状・入校通知書を受けある者は如何なるか
答 上よりの命令あるまでは応召・入校と心得よ
問11. 応召中の者は如何なるか
答 逐次解除になり夫々の実家に帰る如くなるであらう
問12. 海外派遣中(部隊,官民共)の者は如何なるか
答 逐次帰つて来て,召集解除となり夫々の実家に帰る如くなるであらう
問13. 戦死戦病者に対しては如何なるか
答 大詔に拝します通り我国民として為し得る限りの最大の心尽しを以て援護は続けられるであらう
問14. あなた方軍人は(特に将校・下士官)は如何なるであらうか
答 如何なるか未だはつきり申されぬ
問15. 在郷軍人会は如何なるか
答 当分の間命令のある迄は解散しない,将来其の名称はなくなるであらうが其の精神は飽く迄も生きて国民指導の中核とならねばならぬ
問16. 激情の余り自暴自棄的言動をなすものに対しては如何に処するか
答 (斯様の言動は忠良熱誠なる者にも多々あるものと思考す)力一杯頑張つて呉れたのに真に御苦労でした,斯うなつた以上は過去を思ひ諦め,改めて静かに陛下の股肱たり,赤子たることを思ひ省み,天皇の御聖断のまにまに絶対髄順更に更に力の限りを尽して新建設に努力し,大御心に副ひ奉るのみだ,新発足だ共に頑張らう
問17. 学校は如何なるであらうか
答 当分の間今迄通り続けられるであらうが将来教科内容其他に若干制限が加へられるであらう
□追加
1. 軍装品を如何に処理するか
答 武装解除等を考慮し最小限一揃のものを存置し,他は後日嫌疑の因を成さざる如く仕末するが可なり
2. 書類は如何に処理するか
答 官私を問わず機密,極秘,秘密,秘,部外秘等は速やかに完全焼却するを要す,典範令等は随意処置するものとす
3 軍隊手牒は如何
答 将来恩典事務に関係あるに依り各自保存するを可とす
4. 恩給扶助料は如何なるか
答 支給額,年限等は制限を受くることがあるかも知れぬが全然無くなることは無いと思はれる
5. 俺の息子(夫,兄弟)は無駄死した…等の問に対し…
答 謙虚な態度を以て一応先方の話をよく聴いてやり諒解せるものの如く首肯し,あなたの息子(夫,兄弟)さんが忠誠御奉公して下さつたので日本の国体を護持し得たのです,決して決して無駄死等をなさつたのではありません,戦死された息子さんの忠義の御心に対して無駄死などと申しては申訳が有りませんぞ……
どうぞ御心を沈められて此の度の天皇陛下の大詔を拝み戦死された息子さん方が無駄死にならない如うに一生懸命務に励みませう,私も生き残つて生き恥をかいている様な気がするのですが全てを忘れて陛下の御命令に絶対髄順全力を尽くして新建設に邁進する覚悟であります
6. 敵進駐後婦女子に対し暴行することは無いか
答 無いとは言はないが敵の司令部等に於ては必ずや軍紀,風紀を取締まる機関等があると思ふ
若し暴行を迫られたならば断じて日本婦人の面目を損せざる如く敢然死を以て抵抗し彼等に「日本婦人犯し難し」の感を深刻ならしむべきである
7. 敵進駐を黙つて見ていられるか
答 我々は大詔に拝する通り忍び難きを忍び軽挙妄動することなく隠忍自重せねばならぬ
若し軽挙妄動するが如き事あらば却て彼等に乗ぜられ無益の苦痛を国民に加重するのみならず新建設の阻害ともなるのである
(帝国在郷軍人会山前村分会「来翰発翰綴」1945年 足利市役所所蔵)
出典: 『栃木県史/史料編19 近現代3』p.845[*1]
*1:原文の片仮名,漢数字を平仮名,算用数字に改めた