■ 焼け残った東京の新聞社

報知新聞・東京日日新聞・都新聞の三社が焼け残ったのみで東京朝日新聞国民新聞讀賣新聞・時事新報・万朝報・中央新聞・東京毎夕新聞・やまと新聞・中外商業新報等は烏有に帰したのであるが 焼け残った社であつても活字のケースが悉く転覆したので 植字も出来ずまた職工連・記者連は自宅へ駆け付けたまま出社しないから発行難で 東日が当日平板の小號外を出したのみ 5日から報知と東日が2頁物を出し 都が4頁物を出し 10日後にやや復旧に近い物が出来るに至った この間焼失新聞社は罹災外の活版所を買収して号外式の物を出し時事新報などは旧活字ルビなしの四頁物であたかも明治7,8年頃の新聞らしいものを発行している


かくて東日・報知・都の三新聞はこの際たりとばかりに焼失新聞の読者を取込まんと焦りその争奪戦もまた尋常ではなく至る所で衝突の修羅場を演出している また一方焼失新聞社は読者を奪われまいと焦っているが何といっても焼け残りには敵はない 形ばかりの物を日々発行していても焼け残り新聞社に買収された前取次店が配達せずにわか出来の新聞売子も三新聞の他は扱わないので何れも歯ぎしりでやきもきしている まず当分は三新聞の天下であろう