『世界』No.876(2015/12) p.158-167


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オスプレイは安全になったのか」

続出する訓練中止から読みとく



    石川巌



「わーっと大歓声でした。姿を見せたとたんです」観客26000人の会場で見ていた知人は驚いていた。今年8月23日(2015年)陸上自衛隊最大の催し、富士山麓の「総合火力演習」で、演習終了直後、米海兵隊オスプレイが初飛行した


この朝、近くのキャンプに来ていた2機のうちの1機で、私は会場の外でカメラを構えていた。自衛隊機はみな左から右へ低空で会場を横切ったが、オスプレイは中空を逆に飛んだ。今年の「総合火力演習」のシナリオは「敵に占領された離島の奪還」自衛隊が出場を頼んだのだ

何故、富士訓練でどたきゃん続く

実は富士山麓の東、北富士演習場では2014年9月から今年6月までオスプレイの訓練予告のどたきゃんが通算9回も頻発する有様だったのだ


同機の東日本初進出(2014年7月)と同じ日だった東富士飛来のわずか50日後から始まり、自衛隊の「総合火力演習」登場の2か月前まで繰り返された。富士山に雪があったり、天候が悪い日だった。もちろん、この間、8か月、富士への飛来はなかった


オスプレイは日本では反対派から「欠陥機」の一語で糾弾されているが、普天間配備の在沖オスプレイ(第265ドラゴン飛行隊が2012年9月、第262タイガーが2013年4月、計24機)は一度も墜落や大事故を起こしていない。現場で見ていると飛び方も荒っぽい。「欠陥機」の一言で片付けるのにはいささか違和感がある


2014年10月には沖縄へ先にきた第265ドラゴン飛行隊が、前年度の4万時間無事故記録を達成し、米海軍航空安全賞を獲得したことが海兵隊新聞に報じられた。一方、富士山麓での訓練のどたきゃん連発には不審の念を拭えなかった。できるだけ現地に行って事象に注意しながら、もう一度、英語の資料や文献を洗い直すことにした。読んだ資料を次に掲げておく


(1) 米会計検査院調査レポート(GAO,2009年2月,2010年3月)


(2)米下院監査・政府改革委員会のオスプレイ公聴会議事録(2009年6月)


(3)米議会調査サービス局報告書(CRS,2011年3月)


(4)電子軍事情報紙『デンジャールーム』(2011年10月)


「あっ、これだな!」と思った箇所が、読み直した英語文献の中にあった。GAOレポートの「結氷が予想される地域のオスプレイの飛行は、現在、禁止されている」目が釘づけになった「天候レーダーを持っていないし、氷結防止システムも信用できないためだ」ともいっていた。私が見聞した富士山麓の気象はあとで触れる


オスプレイの(6年前の時点での)実態を端的に語っているのは、2009年6月の米下院監査・政府改革委員会「オスプレイ問題」公聴会のタウンズ委員長の討議後の結語だ。全文を引用させてもらう


今日の公聴会の冒頭で私はオスプレイの実力とコストを論議したいとした。皆さんの証言を聞いて、新型機が完全には実現しなかったこと、構造的には安全でない飛行機であることが分かった。オスプレイは暑熱の地では使えず、寒冷な場所でも使えない。砂漠でも高所の土地でも駄目。運動性能も制限された代物なのだ。「出来ない」ことの方が「出来る」ことより多いのだ


当初の能書きのように行かず、価格や経費面でも高騰した。これでは長期使用の資格に欠ける。今日分かったことは特別支出委員会に送る。オスプレイと納税者の国民を不幸から救うべきときだ


6年前の発言なので、その後、さらなる機能改善が行われたのかも知れない。しかし、米議会公聴会で委員長がこんな苦言を呈していたという報道は日本では見たことがない。米日の認識や姿勢の落差を遅きに失したけれど知り得た

数々の難点や軍の体質

最初に結論をいってしまった方が分かりやすいと思う。私の見た英語文献はオスプレイ(MV-22)の問題点として次のような事実を指摘している。並べてみよう


▼できるだけ図体を大きくしないため、ローターを1.5m短くした。エンジンに負担がかかり能力一杯で飛んでいるのでエンジン故障が多い


▼油圧パイプの油漏れが多い。油圧とは配管に入れた油の圧力で機器を操作するシステム。強襲揚陸艦に積むとき翼やローターを折り畳む。油圧パイプも折り畳むので、油漏れや引火の原因になる


▼高地や悪天候に弱い。ヘリ・飛行機両用のため機体の重量を少しでも増やしたくない。だから気圧が低い高空で気圧を高める十分な与圧装置がない。2,3000m以上の高空では作戦能力が低下する


▼同じ理由で気象レーダーもない。寒冷地での結氷を防止する「結氷防止装置」が故障しやすい。そういった場所で結氷の原因となる雨にも強くない。核、化学、細菌戦下で使えない。これも重量を増やせぬため完璧な防護障壁がないからだ


▼エンジンがらみでは「異物濾過装置」の性能がよくなく、いろいろな小片がエンジンに吸い込まれ故障の原因となる。砂漠や土埃の砂や泥が部品の不具合を発生させメンテ要員の悩みの種となる


こうした構造上や機能上の問題のほかに、運用面での弱点も浮上した。ヘリを大きく上回るスピードと航続距離が宣伝されたが、支援の在来ヘリが一緒に行動できない。兵器などの吊り下げも飛行機モードではやれない


年から年にかけ米国防総省の手で見直しが始まった。問題点是正のための設計変更と試験を重ねた


【1】油圧パイプの配線付け替え


【2】飛行制御ソフトウェアの改善


【3】「ボルテックスリング・ステート」(自機の下降気流に巻き込まれての失速)対策


などだ


これ以前のオスプレイをブロックA、以後のをブロックBという。今はブロックCにいる


『デンジャールーム』