本音のこらむ

公娼の現実

斎藤美奈子

慰安婦問題の盲点の一つは,戦前の公娼制度である. 近世から昭和戦前期までの日本は集娼制をとり,娼妓となった娘たちは一定の場所(吉原など)に集められ,厳しい管理下に置かれた. 前借金に縛られた彼女らに事実上,廃業の自由はなかった. 国際常識でいえば「性奴隷」である


それが明るみに出たのが1872(明治5)年のマリア・ルーズ号事件である. 中国人奴隷(苦力)を乗せたペルー船マリア・ルーズ号が横浜に入港した際,苦力の一人が脱走,英国軍艦が明治政府に保護を求めた. 時の副島種臣外相は苦力の解放に尽力するが,「日本にも奴隷制度があるではないか」と指摘され,あわてて芸娼妓解放令を出すに至った


もっともそれは名ばかり解放令であり,公娼制度は維持されたため,激しい廃娼運動が起こる. 慰安婦制度はこうした公娼制度の戦地への流用と見ることも出来る


朝日新聞誤報を理由に「国が性奴隷を認めたという誤った認識を世界に与えた」と述べた安倍首相,「性的虐待も否定された」と決議した自民党の某委員会. 2007年,国会議員を含む有志がワシントン・ポスト紙に「慰安婦は性奴隷ではなく公娼」とする意見広告を出し,火に油を注いだことをお忘れかしら. 明治政府でさえ公娼は性奴隷と認識していたのだよ. 的外れにもほどがある