海軍兵学校長 海軍中将 井上成美『青年士官教育資料』海軍兵学校,1944/01 p.24

感謝の見当外れと云ふのがある

「兵隊さんよ有難う」「兵隊さんの御かげです」等の歌から「衆貴両院の陸海軍に対する感謝決議」等及國民儀禮の「前線将兵に感謝の黙祷」等何れも感謝の見当外れである.


軍隊は陛下の御為國家の為に戰ひ陛下の御為と考へるからこそ喜んで死んで行くのだ. 國民は國に感謝すべきであり天子様の御蔭と感謝すべきである



臣民の分際で陸海軍に感謝などは僭越の至である. 軍隊指揮官としても部下の忠勇に感謝等の言を用ふべきではない. 陛下の御為に死んで居り忠節を尽くして居るので上官の為に戰ふのではない.


上官も部下と同じに軍艦旗に向つて敬禮する時と同じに陛下の御楯として同じ向きに向いて居ることに注意すべきである. 部下の労苦に対し「御苦労なり」との意を表すは感謝の意味ではなくて慰労の意味で差支ないが,感謝などは僭越であると思ふ