井上ひさし『紙屋町さくらホテル』

「陛下が……あの戦争を指導した者たちが、国民にたいして責任をとる。それだけがこれからの国民のものを考える基準になるんだ」


果たして天皇戦争犯罪は免責になるのか。ここで思い起こされるのは、昭和の終焉時のあるエピソードである。昭和天皇が亡くなる時、「可愛い老人」ということがしばしば言挙げされた。国家の最高責任者は同時に、生物を愛する心優しい一人の老人であるというイメージだ。


言うまでもなく、人柄や品性とは違ったところに、国家の責任問題はある。それは私情を挟まぬ過酷なまでの論理に他ならない。だがともすると、日本のメンタリティは、それを情緒的に受け流す。弱々しい老人をそこまで追い詰めなくてもいいじゃないか、と。こうした心理のために、戦争責任は宙吊りにされた。胸深くどす首を突きつけながら、結論は、先送りされてしまった(……)。




『国文学解釈と鑑賞201102/特集 井上ひさしと世界』 p. 81 井上ひさし『紙屋町さくらホテル』(新国立劇場柿落とし公演)





関係ないのだが …… 「新自由主義時代のブレヒトか」 http://d.hatena.ne.jp/saebou/20120817#p1