【海賊版】デーブ スペクター 「真実」を語り続けること

海賊版】デーブ スペクター 「真実」を語り続けること



なぜ『ホロコーストの真実』のような本を日本で出版する必要があるのでしょうか。


日本に滞在してから約12年(興味を持ち始めてからなら30年)、自分なりにジャパンウォッチングしてきたつもりです。この国の知識の高さ、文化教養の深さ、戦後50年間、守り続けている独特の平和主義などに魅了され、母国と同じように、日本を尊敬し愛するようになっていました。


最近、その長い歳月のなかで、もっとも衝撃を受けた「ある出来事」が起こりました。それは同時に、もっとも悲しかった出来事でもありました。


日本に住む外国人によくある「文化の違い」でも、個人的なトラブルでもありません。それは、ある雑誌の記事に起因していました。大手出版社の発行する月刊誌『マルコポーロ』に掲載(95/02月号)された「ナチ『ガス室』はなかった」という記事です。いままで信頼していたのに、突然、裏切られたような感じでした。


その記事を書いた人は、ある種の投稿マニア(英字新聞などのメディアが中心)で、その内容にはオリジナリティのかけらもなく、世界中のマイナー系メディアやインターネットでしかみられないようなプロパガンダの受け売りでした。それだけなら、どんな社会にもいる≪辺境人間≫(フレンジエレメント)のたわごとであり、驚くべきことでもありません。


インテリジェンスのあるメジャー雑誌の著名な編集長が、そのような≪ジャンク記事≫を平然と掲載したことに、驚きを隠すことができなかったのです。ホロコーストについての日本社会の認識不足を痛感させられた出来事でした。ジャーナリズムの倫理問題にも通じるようなところを感じさせられました。


本の学校教育では、自国の歴史さえ満足に教えられていないようですから(無意味な受験競争の弊害としか見えませんが)、歴史的事実の重要性を認識出来ないのかも知れません。あの戦争ですらそうなのですから、ホロコーストに至ってはお寒いかぎりでしょう。




ホロコースト否定論者たちは、反ユダヤ主義、ネオナチなどの極右思想と結びつき、世界的なプロパガンダを繰り返しています。否定者たちは、なぜ歴史的事実を歪曲し、捏造しようとするのでしょうか。本書は、その疑問に充分に答えているでしょう。


当事者であるドイツ人も、世界的情勢からユダヤイスラエルに敵意を持つ人たちも、ホロコーストを否定していません。何万人もの生き残りや目撃者たちの証言、捏造のしようのない写真や映像記録、几帳面なドイツ人が残した極めて細かい書類、これら山のような証拠があるにもかかわらず、否定説を振りかざす人はあとをたちません。


スピルバーグ監督の映画『シンドラーのリスト』のラストシーンには、腕に強制収容所の囚人番号が永遠に刻まれている、実際の生き残りの人たちが登場しています。彼らの存在そのものを否定するようなウソを、平然と言ってのける人たちの心はどうなっているのでしょうか。


例えば、日本人にとってのヒロシマナガサキへの原爆投下を否定したり、正当化しようとすることが、いかに非常識に思えるか考えてみてください。また、南京大虐殺、ソンミ(ミライ)村虐殺事件などのような悲惨な歴史的事実は、≪嫌悪犯罪≫(ヘイトクライム)以前の道徳の問題であり、いかなる大義名分のもとでも、その曲解を許されることではありません。


歴史的事実のいわれなき否定に怒りを覚えるべきなのは、被害者や遺族などの当事者だけではなく、道徳を重視する世界中のすべての人たちなのです。




日本にきて、外国の真似をした反ユダヤ的出版物が数多く出版されているのには驚かされましたが、それらの本の著者のあまりの無知さに、思わず笑ってしまうのです。私自身たまたまユダヤ人ですが(といっても信仰心はまったくありません)、世界支配の陰謀だの、フリーメーソンの謀略だのといったたわごとを聞くと、唖然とするほかありません。ユダヤ人ほど、自分優先で自由奔放に生きようとする民族はなく、協調性のない民族はないと思うのですが……。




否定者や陰謀論者たちは、「言論の自由」を盾に、真実を葬り去ろうとしています。もちろん、言論の自由は極めて大切なことですが、それはきちんと取材して裏をとっての話です。憶測や妄想で記事を書かれたらたまりません。編集者は当然、言論の自由を貫くためにも、記事をチェックしなければなりません。『マルコポーロ』廃刊に至る経緯は、本来メディアに出るはずのないものを、安易に登場させてしまったメディアの責任を問うことになりました。


彼らの執拗な攻撃も脅威ですが、無知ほど恐ろしいものもありません。私たちは、知らなくてだまされることがよくあります。「歴史は現在にかかわる」という著者のことばを忘れずに、歴史的事実について「知る」努力を怠ってはならないでしょう。私たちが皆、ホロコーストのことをよく知っていれば、『マルコポーロ』の記事など、出来の悪いジョークとして、笑って無視しておけばいいようなものでしかないのですから。


ナチスドイツのヒットラーゲッペルスは「ウソは大きければ大きいほど、人々を信じさせることができる」という言葉を残しました。私たちにできることは、このナチスの恐ろしい警告を肝に銘じて本書『ホロコーストの真実』の著者のように、「真実」というものを言い続けることです。



1995年10月



デボラ リップシュタット『ホロコーストの真実』(恒友社) 推薦のことば






スペクターコミュニケーション所属タレント

片山さつき ……なんとも

http://www.spector.co.jp/talent/dave/index.html




0901 追記


橋下は……


http://hatajinan.blog61.fc2.com/?no=457&ul=347205021e7b848f&mode=m