数学教育協議会

数学教育協議会設立趣旨書 1951/12

われわれは, 日本の独立を達成し, 国民の生活を高め豊かにしていくことを念願するものである. 次代をになうべき国民の教育は, この目的にそうものでなくてはならない. ところが, 現在行なわれている数学教育によっては, この目的を達成することは, きわめて困難であると考える.

われわれは, 現在の数学教育に対して次のように判断する. 今日の数学教育破局に瀕している. 児童の計算力は2年低下しているといわれ, 論理的思考に対する意欲は失われつつある.

これは戦後の社会状勢に起因するところも多いが, その最大の原因は経験単元または生活単元とよばれる学習形態によるといわなければならない. 断片的に個々の教材を漫然と取り上げ生活指導に利用していくという経験単元の方法では, 学力の低下は余りも当然の結果である. このような断片的な教材の寄せ集めによっては, 断片的でない生活指導は不可能であろう. 経験に即すると称していたずらに感覚的な世界に低迷する「新教育」は, 実は形式陶冶をふりかざして経験を無視した「旧教育」の単なる裏返しにすぎない. われわれは, 組織された経験こそ生活指導を可能ならしめるものであると考える. そしてまた, 今日「生活指導」といわれるものは, 内容的には「消費生活指導」の一面に止まり, 「生産生活指導」が無視されているのは重大な欠陥といわなければならない.

数学教育は, いたずらに経験に追いまわされるのではなく, 経験を組織し合理的な思考や批判的な態度を身につけさせることを意図し, さらに進んで人類の幸福のために, 環境を積極的につくりかえていく近代科学の精神にそうようなものでなければならない.

われわれは, この念願に一歩でも近づくために, 広く志を同じくする人たちの協力を望むものである.

           1951年 12月

(起草者 小倉金之助, 奥野多見男, 香取良範, 黒田孝郎, 遠山啓, 中谷太郎, 山崎三郎. これはのちに, 1953年11月29日の数教協第1回大会で, ほとんど訂正するところなく承認された. )

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数学教育協議会研究局 http://www006.upp.so-net.ne.jp/amiken/