2004/12/16

日本ジャーナリスト会議 [*1] 出版部会例会:「連載劇画『国が燃える』休載問題」12月16日(木)午後6時半, 岩波セミナールーム, 講師・笠原十九司都留文科大教授, 俵義文「子供と教科書ネット21」事務局長, 800円


出版流通対策協議会 [*2] 『週刊ヤング・ジャンプ』(集英社刊)連載『国が燃える』(本宮ひろ志著)の休載について

『週刊ヤング・ジャンプ』(集英社刊)連載『国が燃える』(本宮ひろ志著)の休載について [*3]

株式会社 トーハン
代表取締役社長 小林 辰三郎 殿

2004年12月 1日

出版流通対策協議会
会長 高須 次郎 


『週刊ヤング・ジャンプ』(集英社刊)に連載されている漫画『国が燃える』(本宮ひろ志著)第88話に描かれた南京虐殺の描写について, 集英社と作者は, 南京虐殺は「ないという強力な証拠があるものの, あるという確証がない」という立場をとる勢力から抗議を受けた. 抗議の主旨は,

  • 南京虐殺について諸説があるにもかかわらず戦争の真実として描いていること
  • 素材に使った写真の真偽は定かではなく百人斬りを事実として記載していること
  • 歴史的認識が確立されていない青少年に大きな影響を与え心を傷つけ, また日本国・国民の誇りを傷つけるものであって, フィクションと記載した漫画であっても許されないというものである.
  • これに対して, すぐさま集英社週刊ヤングジャンプ編集部と作者である本宮ひろ志氏は, 連名で, 「読者の皆様へ - 本誌第42号, 43号(平成16年9 月16日, 22日発売号)掲載の『国が燃える』について, 読者の皆様から様々なご意見を頂きました」という文書を2ページにわたって掲載し, 「適切でないと思われるシーン」の削除・修正を発表するとともに, 漫画を第4部の準備期間ということで休載とした. 削除・修正および休載の理由は,
  • 百人斬りについては戦犯として処罰された者の遺族が裁判で係争中なのに誤解を生じる表現をした
  • 「描かれたシーンが過剰な虐殺のイメージを想起させる」と考えた
  • 参考にした写真の真偽について明確な結論が出ていないものを使った

というものである. 「深くお詫び」し, 単行本化にあたっては, 第43号・第88話掲載の19頁中8頁を削除, 10頁を修正すると発表したのである. 驚くべきことに無傷で残ったのは1頁だけだ.


この事態は, 出版の自由・表現の自由にとって, きわめて重大な問題である.


まず, 抗議した勢力は, 集英社本社前に街宣車を繰り出したり, 不買運動をちらつかせるなど様々な圧力を企図した. どのような交渉をもったか想像に難くないが, 「言論には言論をもって議論する」というのが民主主義のルールではないのか. このような行動は, 厳に戒められるべきである.

つぎに, 私たち出版に関わるものとしては, 今回の集英社本宮ひろ志氏の対応に大きな危惧を持つ. そもそも, 歴史的事件や人物を素材に作者が独自の創作活動によって作品を作り上げていくことは通常行われていることであり, 出版の自由・表現の自由にとって重要な要素である. 日本が中国戦線で多くの人々の命を奪ったことは歴史が証明していることであって, 深い自省の念を持ってこの問題をとらえて深化することなしに, 出版の自由・表現の自由を守ることはできない.


本来, きちんとした議論が必要な問題であるにもかかわらず, 安易な措置をとったことは, その場逃れの誹りをまぬがれないであろう. 私たちは, こうした対応をしたことは出版の自由・表現の自由の幅を自ら大きく狭める行為であり, 出版人のとるべき道ではなかったと考える.

今後もあり得るであろうこうした事態へ対して, 毅然とした態度で臨むことを, 全出版人に訴えるものである.