(2-1)「閉ざされた門」開く/ファントム機墜落事故/米軍関係訴訟に手がかり


【解説】


日米安保条約に基づく,公務中の米兵の「裁判権」が問題になったのは1957年のジラード事件. 群馬県相馬ガ原演習場で米軍のジラード二等特技兵が薬莢を拾っていた日本人主婦を射殺した. 米軍は公務中と主張,日本側はそれに反論,結局,米側が裁判権を放棄し前橋地裁で執行猶予付きの判決が出た. この間米連邦地裁が「ジラードの身柄を日本に引き渡すべきではない」などと判断,日米間で裁判権をめぐり大きな騒ぎとなった


裁判で直接「公務中の米兵」の裁判権が争われたケースはない. しかし,米軍の活動が日本の司法当局の判断対象になった例としては,今回の訴訟の事故機が飛び立った厚木基地の騒音に悩む周辺住民が,国に米軍機飛行に対する差し止めを求めた「厚木基地爆音公害民事訴訟」がある


一審・横浜地裁は1982年10月差し止めについては協定によって「米軍への裁判権はない」と判断. 昨年4月の二審・東京高裁でも同じ理由で住民側の訴えが門前払いされた


今回の訴訟で問われたのは,米兵に対する民事裁判権


原告側は「最近の学説では外国人がその国の裁判権に完全に免除されるという考え方から,免除されるのは一部という考え方に移行しつつある」という解釈を紹介. その上で「地位協定では,米軍関係者が日本の裁判権に服さないとは言っていない. 大筋で国が処理すると決めてあるだけ」と米兵の被告適格を主張していた


もう一つの焦点は賠償額だった. 国は約1千4百万円を支払うとしている以上,判決の賠償額が,その額を下回ることは,これまでの裁判例ではあり得ないことだった. 国側は原告らの年齢などを基礎に,交通事故などの賠償金算定を根拠にこの額をはじき出した. 一方の原告側は物損,逸失利益などのほかに「平和的生存権」を侵されたことに対する制裁的賠償や精神的慰謝料を大幅に付け加えた. 換言すれば,交通事故での被害と同じととらえるのか,基地の特殊性に注目するのか---だった


今回は民事訴訟での司法判断で,ジラード事件のような刑事事件にそのまま適用できるとはいえないが,これまで「閉ざされた門」だった在日米軍関係者への訴訟に門を開けたといえそうだ


(横浜支局・浜田早代子)