佐野眞『巨怪伝』「虐殺と伝令」から(要旨)
東京朝日新聞本社(現在の銀座6丁目)は倒壊を免れたものの 大火のため 一日夜に 帝国ホテルへ臨時編集部を移す
食糧が無いので 石井はかつての同僚 正力松太郎 から食糧を手に入れるよう「あそこには食い物と飲物が集まっているに違いないから持てるだけ貰ってこい」と部下に命ずる
食糧を抱えて戻った部下は正力の言葉を伝える
正力「朝鮮人が地震の起こる九月一日に向けて謀反の計画を立てていたという噂があるから 各自 気をつけろ 記者が回る時にも 触れ回ってくれ」
朝日新聞専務 下村海南が「其の話は何処から出たんだ?」
使い走りの部下「警視庁の正力さんです」
下村「それはおかしい」「九月一日の地震を予想出来た者は一人もいない 予期していればこんなことにはならない 朝鮮人が九月一日の地震を予知してその時暴動を起こすことを企むわけがない そんな流言蜚語を喋ってはいかん」
普段から朝鮮・台湾問題を勉強し研究し経験豊かな下村の信念に[*1] 警視庁の言うことだからと「朝鮮人謀反」説を信じかけた石井は 自分を恥じる