朝日新聞1899/10/31 5面

●學校生徒の服装

近來市内各小學校の生徒が一般の風習大いに華美に赴き就中(なかんづく)華族女學校高等師範附属小学校の女生徒に至つては常に絹布を纏ひカステル海老茶色の袴を穿ち花やかに粧ほひて昇校し華美の風は益々蔓延こりて其底止する所を知らず去れば大祭祝日或は卒業式等の式日には縮綿(ちりめん)紋附の三枚重ね綺羅を盡して互ひに誇る様子あれば中流以下の家にては學資よりも先ず其お粧(つく)り入費に堪へずして已むなく中途に退校せしむるなど教育上[*1]尠(すく)なからず阻碍を來し學校の制則宜しきを得るも何の益なく畢竟薫陶行届かざるものと同一の結果に立至るべしと心ある人々の嘆息するや久し 然るに麹町區市立富士見小學校長山崎房八氏は茲に見るあり率先して其改善を圖らんと此程(このほど)生徒の父兄を同校に招待し教員一同列席の上種々の弊害より家庭教育の方法を説明し更に生徒の服装に及びたる末十一月一日より男子は勿論女子と雖ども断然木綿服に限り式日にも黒木綿の紋附きにメリヤス又は毛繻子以下の袴を着する事に改めたりとぞ以來各小學校にても此美風を學び嚴格に監督を輿へて浮奢華麗の悪風を一洗すべきなり尤も生徒の父兄たるもの亦自己の富限を衒ひて子女に奢侈を教ゆるが如き劣情を排し謹儉節制の美徳を養成せんと實に今日の急務といふべきなり

*1:「教」の辺は「殺」の辺 キョウ・コウ, 「〜は」の「は」は片仮名の「ハ」に似た字