【海賊版】「はだしのゲン」の利用制限等に対する声明 2013/09/02 公益社団法人全国学校図書館協議会 理事長 森田盛行


報道によると,2012年8月に島根県松江市議会に市民から「はだしのゲン」(中沢啓治著)は,学校図書館の蔵書として不適なので,小中学校の学校図書館から撤去するように陳情がなされ,市議会で同陳情を審議した結果,全会一致で不採択となりました. しかし,議員から教育委員会の判断で決めるべきだとの意見があり,教育委員会事務局が教育委員会議にかけることなく,校長会の席上で当該作品を児童生徒が自由に読むことができないよう閉架措置を取るように2回にわたって求め,該当図書を所蔵する学校では求めに応じて閉架措置にしました. 後に,教育委員会議が開かれ,教育委員会事務局の手続きの不備を理由に閉架措置を撤回しました


この件に関し,教育委員会各学校の選定した図書を各学校の司書教諭・学校司書などの意見を聞くことなく閉架措置を求めたこと,児童生徒の情報へのアクセス権を考慮しなかったこと,学校図書館の有する機能及び専門性に対する理解が欠如していたことなどに問題があり,深く憂慮するものです


学校図書館は,学校図書館法第2条の「学校の教育課程の展開に寄与するとともに、児童又は生徒の健全な教養を育成すること」を目的として学校に設置されているものです. 学校図書館は,学校における教育活動及び読書活動を支え,思考力,判断力,批判力及び感性を培い,生涯にわたって学び続ける市民を育成する重要な機能を持ちます


この機能を果たすためには学校図書館に多様な資料が必要であり,とりわけ図書が重要な地位を占めます. そのためには,児童生徒は学校図書館の蔵書に自由に触れ,自由に利用できることが前提となります. 『児童の権利に関する条約』(1989年国連総会採択)第17条には,「締約国は,(中略)児童が国の内外の多様な情報源からの情報及び資料,特に児童の社会面,精神面及び道徳面の福祉並びに心身の健康の促進を目的とした情報及び資料を利用できることを確保する」と規定しています. また『ユネスコ・国際図書館連盟共同学校図書館宣言』(1999年第3回ユネスコ総会採択)では,学校図書館の使命として「学校図書館のサービスや蔵書の利用は,国際連合世界人権・自由宣言に基づくものであり,いかなる種類の思想的・政治的あるいは宗教的な検閲にも,また商業的な圧力にも屈してはならない」としています. このように,国際的にも児童生徒の情報へのアクセス権は認められ,児童生徒の基本的人権として最大限尊重されるべきものです. 学校図書館は,この児童生徒のアクセス権を保障する重要な機能を持ちます


学校図書館憲章』(1991年全国学図書館協議会制定)には,「学校図書館は、選定基準に基づいた質の高い資料を選択し、収集する」と規定していますように,各学校の定める「学校図書館資料選定基準」に基づき,「学校図書館資料選定委員会」が図書等の資料を選定しています. この委員会は,学校規模等によって異なりますが,概ね管理職・司書教諭・学校司書・教務主任・研究主任・教科主任・学年主任・児童生徒代表等の全部または一部からなり,それぞれの立場及び専門性に基づく視点で選定します. 学校図書館資料の選定に関しては,学校の管理責任者である校長が最終的には責任者ですが,資料の選定の際には学校図書館に関する専門的知識・技能を持ち,学校図書館の図書等の利用状況等に詳しい司書教諭・学校司書が専門的見地から意見を述べ,資料選定に関する大きな責任を持っています


学校図書館は,多種多様な資料を児童生徒に提供し,自由な利用による情報へのアクセスを保障すること,そのためには専任の司書教諭・学校司書を配置し,各学校の「学校図書館資料選定基準」に基づいて「学校図書館資料選定委員会」が教職員・児童生徒等の要望を考慮して選定を行うことをここに再度確認します

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広島市議会ホームページ > 請願・陳情 > 陳情【2011/05/23】 > 全ての市内図書館より「はだしのゲン」を撤去することについて【2013/09/02】id:dempax:01140424


徳島県板野郡松茂町議会第3回定例会会議録 2013年9月9日 id:dempax:20140423



【参考図書】『正論』2013/11月号/創刊40年[総力特集]『はだしのゲン』許すまじ!