まえがき

(…前半略…)


この資料集はくしくも,被爆50周年という記念すべき年に刊行されることとなった. 以下,刊行の意図と経過についていくつかの点を指摘しておきたい


【1】この資料集は半世紀にわたる原水爆禁止運動の全期間の資料を網羅するものではない. 1954年3月のビキニ事件を契機として全国に燃え広がった国民的大署名運動から第一回原水爆禁止世界大会,原水爆禁止日本協議会の結成にいたる資料を中心に,1960年の第六回世界大会までの運動初期の資料を,二期全七巻(第一期は1954年から57年,第二期は58年から60年)にわけて編纂したものである


資料を60年までとしたのは,全国各地でさまざまな形ではじめられた運動が組織的運動に発展していった,この初期の運動のなかで,原水爆禁止運動の目標,課題,理念や運動と組織のあり方などについての原則的な立場や理論が確立されていったこと,ここで確立された原則や理論が,今日の民衆運動にとっても示唆に富むからである. 初心をかえりみる,自主的で創意ある運動展開の息吹を,今日に生きる記録としてくみとってほしいと思う



【2】この資料刊行の契機となったのは,故広田重道氏[*1]が神奈川県立公文書館に寄贈した「平和運動資料」を知ったことにあった. この広田コレクションを整理するなかで,運動の基礎資料,とくに署名運動関連資料などを補うことが適切と考え,日本原水協資料室をはじめ杉並区の方々や神奈川県原水協,地域の皆様の協力を得て編纂した



【3】ここに収録された資料は,原水爆禁止運動の発足からその初期に展開された運動のなかから生み出されたものである. 原水爆禁止署名運動全国協議会や日本原水協に寄せられた各地の諸資料,世界大会日本準備会,原水爆禁止日本協議会の組織資料,各世界大会関連資料のなかから選択し,各年の運動の展開と特徴が資料から読みとれるように配慮した. したがって,以下の解説はこれらの資料を生み出した運動を概観したものである. これらの資料の背景または基盤を理解していただければ幸である



【4】なお,本資料集の刊行は,広田氏の資料整理・保存に負うことを明記しておきたい. そしてまた資料集の作成にあたって,日本原水協をはじめ多くの団体や個人の方々から資料の提供をいただいた. 資料の収集,選択,編集の全般にわたり協力を惜しまなかった山村茂雄,安田和也[*2]両氏のご協力と緑蔭書房南里知樹氏のなみなみならぬご努力に負うところ甚大である


記して心から感謝の意を表したい

*1:[小林注記]広田重道(1907-1982)東京生まれ. 1950年平和擁護日本委員会の発足に参画. 以降横須賀平和懇談会の代表として平和運動をつづける. 原水協の発足に力をそそぎ常任理事として世界大会,原水禁運動をすすめる. 第五福竜丸展示館初代館長. 広田氏収集の資料は現在,神奈川県立公文書館が所蔵. 神奈川県を中心に貴重な戦後の平和運動資料を多数収録している

*2:第五福竜丸展示館学芸員